05  やんちゃボーイズ・アンド・ガール

081107



今朝方午前5時前、は今俺たちが寝静まっているはずの部屋へヘアーワックスとヘアーアイロンをこの朝早いのにもう部活時の姿で持ち込んでいる。4人部屋にいるのは俺、真田、幸村そして柳生。すやすやと無防備に寝息を立てているのは今現在、真田と柳生だけだ。



「ほら真田の寝顔だよ、?」
「そんなの分かってるよ!」
「静かにせんと真田達が起きるじゃろうが」
「あ、ごめ・・・」



は顔を真っ赤にして幸村に反論したが、その大声じゃ真田達を起こしかねない。がなぜここにいるか、説明すると幸村の髪の毛をいじりにきたらしいのだ。に寄ればこの髪の毛を一度さらさらツヤツヤストレートにしてみたいとのこと。しかし今のはそんな目的も忘れて真田の寝顔に見入っている。そんなにウチのマネージャーは真田に惚れこんでおったか。



「・・・仁王」
「なんじゃ」
「ここに男物のハードワックスもあるのだよ」
「・・・・・・」



そうやって俺に向けた眼差しは何よりも輝いていた。真田に惚れ惚れしていたと思ったら、は手をうずうずとさせている。が何を期待しているのかすぐに分かりそして俺もその案にすぐ乗ろうとした。こいつの血は悪戯をするときに騒ぐのだ。



「なんだよ、2人とも・・・俺が分からないようにアイコンタクトするだなんて関係、いつからなったんだい?」
「違うよ、せっちゃん・・・これから面白いことするんだからさ、あっなんならせっちゃんも手伝ってよ」
「?」



幸村が俺に恐怖たっぷりの笑顔で言うとはそんなことを気にする様子もなくそう言って幸村を真田の足元にいるよう指図し、俺とは真田の枕元にいる。はフフフと意地の悪い笑みを浮かべながらハードワックスを手に取りそれを見た幸村がニヤッとぞっとするような笑い方をした。



「1回真田の髪の毛いじってみたかったんだよねー立ててみたらどんなんかなぁ」
「せやのう、面白いことになるっちゅーのは確かじゃな」
「それより真田、なんでまだ寝てるの?4時にいつも起きてるって聞いたけど」
「昨日は遅くまでブン太たちがいて騒いだりしてたからね、寝付いたのはきっと2時過ぎなんじゃないかなぁ」



へーと幸村の説明に相槌を打ちながらは器用に手を動かしていく。これだけ髪を触られているのに起きない真田も真田なんだが。俺はニヤけるの手伝いをしながらはどんどん真田の髪の毛を立てるようにワックスを撫で付けた。幸村の要因は真田が急に起きた時取り押さえる役目らしい。それが恋する女のやることなんだがどうかは疑問なところだが・・・・・・。



「それにしても柳生も起きないねぇ」
「柳生も昨日遅くまで本を読んでたみたいだからね丸井君たちが騒いでるおかげで眠れませんって文句言ってたし」
「ふーん」



は柳生の眼鏡を外した寝顔をしげしげと眺めていたけどそれ以降は真田しか眼中になかったようだ。まぁはよく柳生の眼鏡を取り上げたりして素顔を何度も見ているからな、しかしまぁそんな女子もこいつぐらいだろう。



「よしっでき・・・うぷぷやばいあたし天才」
「どれどれ・・・ぶふっ・・・うん、いいんじゃないかな?」
「まるで別人じゃのう、・・・くくくっ・・・」



真田を起こさないよう声を押し殺して笑おうと試みたがそれは無理な話で俺たちは急いで部屋から出てしばらく距離を置いた後大きな声で笑いを起こした。その後10分ほどと幸村は笑い転げていて、写メればよかったーとかじゃぁ俺は髪が潰れないよう帽子を隠しておくね、とかなんやら言ってお互いの部屋に戻っていった。


時間帯的にもうすぐ真田も柳生も起きそうな時間なので幸村の髪をストレートにするのはまた明日にするらしい。もまぁ、懲りないやっちゃ。それにしてもあの真田は傑作だった。まるで今時の男子中学生だがそれが真田の場合顔との均衡が全くと言ってもいいほど保たれていなくてなんともいえぬ笑いを誘う。ぷぷ、これは皆が起きた時大変なことになるのう。










* * *










6時前にようやく真田が目覚めた。柳生もそれに続くよう起き、眼鏡を手にしたまま挨拶し、すぐさま身だしなみを整えるため洗面所へと向かった。真田は時針が指す時間にむ、と不満げな声を上げたがすぐに立ち上がって布団を片付けだした。



「幸村、仁王早いな。おはよう」
「おはよーさん、たまに早く起きるのもよかね」
「ああ。早く目が覚めたものでね」
「洗面所は今柳生が使っているようだな」
「そうだね、しばらく洗面所にいるだろうから先に着替えるといいよ」
「そのようだな」



と別段自分のヘアスタイルの変化を気付くこともなく、真田はジャージの袖へ腕を通していた。幸村は真田が見ていない間にニヤリと笑っていたが、俺もそれにつられて頬が多少引き攣る。柳生がいつもの姿でようやく洗面所から出てくると、真田を見ていきなり怯んだ様子を見せた。



「さ、真田君その髪型はどうされたんですか?!」
「なんだ柳生、俺の髪型が何かおかしいのか?」
「おかしいということはありませんが・・・」
「寝癖がついてるのかもしれんな」



真田は軽く自分の髪を触り、違和感を感じて鏡を確認しすぐに洗面所へと向かった。すると次の瞬間、思ったとおりの真田の悲痛な声が耳を貫く。くく・・・すぐに幸村がしてやったりと笑みを浮かべ洗面所へと向かう。真田もこれだからいいカモにされるんじゃき。



「なな、ど、どうしたら俺の髪が重力に逆らうのだ!!」
「ああ、真田いじっちゃダメだよ」
「幸村?!」
「別にそれは寝癖じゃないよ。ワックスで立ててあるんだ」
「わっくす?それは床などにかけるものではないか!」
「ヘアーワックスだよ、真田。整髪料なんだ。とにかく今日君はその髪をいじってはいけないよ」
「何故だ!」
「(なにゆえって・・・)俺が真田の帽子を預かっているんだ。返して欲しかったら今日は一日中そのままその髪型でいることだね」



フフ、と幸村は微笑みながら洗面所を出ると真田は俺が何かしたのかと慌てふためいていた。確かに真田は幸村に何かをしたのう。俺はそう幸村が出た後洗面所に顔を出しそう言いのけると真田は眉間に深く皺を寄せ疑問めいた顔をしている。だがその髪型に真田の威厳というものが全て奪われている以上、それも滑稽なものにしか見えない。おお、おお真田は大変なことをしでかしたもんじゃ。



「仁王はそれを知っているのか?」
「まぁ検討は何となくつくかの。それにしてもお前さんも一番やってはいけないことをしたもんじゃき」
「それは俺自身が気がつかなければ意味がないものなのか・・・」
「そういうことになるかの」



まぁその髪で1日頑張りんしゃい、と言うと真田は自分が幸村に何をしたのか悶々と悩んでいた。そう、お前は一番やってはいけないことをしでかした、真田。の心を奪うということをのう。










* * *










その日、真田とすれ違う部員という部員がその髪型について一言ずつひやかしもあり、吃驚もありとのコメントを残していった。真田はそのたびにひやかす者であればいい返し、驚く者には項垂れているような態度を見せた。


「ブッ!・・・真田先輩マジどーしたんスかその髪型!」
「とうとう色気づいたのかよ真田!!」
「ばかもん!どうしたこうしたも朝起きたらこのような状態になっていたのだ!!」



赤也と丸井なんてゲラゲラと笑い転げたので怒った真田はもう一度叱り飛ばしたが2人は笑い止まない。しかしその後のジャッカルの核心をついた言葉で、事態は急転させられることになる。



「そ、そりゃ他の誰かに髪いじられたってことじゃぁ・・・」
「俺が幸村を怒らすようなことをしたらしく、幸村にこのままの髪型でいろと言われたのだ・・・」
「それでは幸村がやったということになるが、幸村はヘアーワックスなど持ち歩いてなどいないぞ」


鋭く柳が横入りする。柳は少し真田の髪型に驚いたものの似合っているではないか、と先ほど言ったばかりだ。やっぱりうちの参謀は抜け目ないくせにどこかズレている。



「む、それでは幸村がやったということではないではないか」
「そうなるな。お前と同じ部屋だった奴は他に仁王と、柳生だな?しかし柳生がそのようなことをやるなど考えられないな」
「そうだな・・・」



すると話の矛先が消去法で自然と俺に向く。しかし俺は真田に悪戯などせん。それだって参謀がよーく分かっとることじゃけぇの。



「同じく仁王がやるのも考えられない」
「では誰が一体このようなふざけたことを・・・」
「丸井とジャッカルは有り得ないな、俺が目が覚めた時にはまだ寝ていたからな。ついでに赤也は朝食の時間に寝坊してきている。」



となると・・・と柳の視線が笑いをひたすら堪えているへと向けられた。やばいぞ、と俺が思った瞬間参謀は鋭い指摘で、その答えを導き出した。



「お前と特に親しい者は他にこの部にはいないな、弦一郎。となると昨夜今朝幸村の部屋に行くと約束していたが犯人ではないか?」



は笑いを堪えながらも聞き耳を立てていたらしく会話の成り行きに不安を感じそろりと宿舎に戻ろうとしたがすぐに真田に捕まった。ああ、哀れなじゃ。



「待たんか、!」
「ひっ!」
「どこへ行こうと言うのだ」
「ちょ、ちょっと宿舎に用があったの思い出してね・・・」
「フン、では聞こう。正直に答えろ。俺の髪を今朝いじったのはお前か?!」



は口の端をピンとはっていたがみるみる内に口角は上へと上がっていき、深呼吸をついた。そしてすぐに下唇を噛む。そうだ、内のマネージャーは嘘をつけない!



「あ・・・たしです・・・ごめんなさあああい!」
!!」
「ごめ、ごめん真田ちょっとした出来心だったの、」
「出来心も何もあるか!俺にこのようなことをして面白いのか!」
「お、おもしろいに・・・面白くないです面白くないです!!」



は必死にぶんぶん首を振ってはいるが、これは面白いに決まってる、と顔に書いてある。これに思いっきり腹を抱えている赤也と丸井をこれでもかというほどの睨みを真田は利かせるとすぐにその睨みをに向けた。



「出来心で人を玩具にしてはいけないとお前も知っているだろう!」
「う、うん・・・」
「お前にとっては出来心だったとしてもやられた本人は不快な思いをするだけだ!」
「真田は不快なの・・・?」
「不快に決まっておろう!」



そっか・・・とは俯くとぐすぐずと鼻を啜りだした。ごめんなさい・・・と小声で再び告げている。急にが泣き出したので真田は目を丸くし慌てだした。するとどこからか幸村が颯爽と現れ、の横についた。



「真田、いくらが悪いことをしたからってそんなにキツく叱り飛ばしちゃダメじゃないか。だって女の子だよ?」
「だがしかし・・・」
「そんな風に頭ごなしに叱るのはよくないよ。だってほんの出来心だったんだから。ほら、も泣かないで」



は頷くと真田は余計に気まずそうな顔をしている。錦先輩たちが外からマネージャー泣かすなよーと野次を飛ばしてくるせいかなぜか真田が悪いようにも見えてくる。そんな光景に柳が介入してきた。



「しかしまぁ弦一郎、そう叱ってくれるな。案外その髪型も似合っているしな」
「そうだよ真田。その髪型似合ってるよ」



柳は本気のようにそう言うと真田は更に慌てふためき頬を上気させた。ここまでくれば、俺が助け舟を出してやることもない。



「俺も似合うとると思っとうと。」
「イケてるんじゃないスか?」
「俺も結構いいと思うぜ!」



それに赤也も丸井も便乗してきて、挙句の果てにはジャッカルそして先輩たちでさえ結構いいよな、と頷きあっている。それに真田はワケが分からない、という顔をして辺りを見回している。そんな真田に、最後の止めの一言をが発した。



「あたしも、似合ってると思うよ?」



やられた。真田は完璧にやられてしまった。目を未だ丸くしてはいるがすぐに視線を気まずそうに逸らす。頬が赤く染まっていた。



「そ、そうか・・・」
「うん、似合ってるよ真田」
「さ、先ほどはきつい言葉で叱って悪かった・・・」
「ううん、いいの。あたしこそごめんね。」



はしおらしく言うと、真田は被ってもいない帽子のひさしを掴もうとしたがそれもできず手持ち無沙汰でいた。温かい沈黙が流れると幸村が「じゃぁ練習に戻ろうか」と声かけると先ほどより一層やる気を出した部員たちが走りこみに入っていった。俺たちもそれに続いていったが、真田は満更でもなさそうな顔をしている。本当に単純な奴じゃのう。


その後走り込みの後俺は聞いてしまった。幸村にドリンクを渡すにこっそりと幸村は「も大した役者だよね。俺も一瞬騙されたよ。」と言うとはにっこり笑って「まぁ本当に似合ってるんだからいいじゃない」と返答した。そう、先ほどののは嘘泣き。詐欺師と呼ばれる俺でさえ少しは目を疑った。しかし最終的には俺と幸村だけが嘘泣きだと見通したらしい。


ウチの神の子も恐ろしいったらありゃしないが、おお、それ以上にウチのマネージャーの恐ろしいことったら!







<< TOP >>