45   平成純愛浪漫譚

130816



なんか最近部内の空気良くないなーと俺はなんとなく感じていた。古江が部活に来なくなってからというものの、真田とがあまり口を利かなくなった。かと思えば、元々仲の良かった柳とだが、何故か二人の仲が急接近した。俺達は真田とが別れて今度は柳とが?!と思ってここんとこずっと内心ヒヤヒヤしている。真田はまだの事好きそーだし。てかあいつらカップルが別れるだなんて考え俺には微塵もなかった。ただあの真田の事だから、「俺と一緒の墓に入ってくれないか、?」とかでも言って大学卒業と同時に結婚でもすんのかなとか思ってた。


「最近あいつら様子変だよな〜なぁ、ジャッカル?」
「ん、あいつら?」
「真田と柳との事」
「ん?あ、ああ!そうだな。何か最近な。何だろうな、真田となんかぎこちないよな」
「だろぃ?なーんか、ミョーに柳とも仲良いし、あいつらもしかして・・・三角関係?だったりして?」
「一体誰と誰と誰が三角関係なんでしょうか」
「お、ヒロシじゃん」
「今度は誰の噂話をしてるんですか?」
「それはもう、挙動不審な真田と柳と最近落ち込んでるしかいないだろぃ」


するとヒロシはこっちに視線を少し向けて、ああ、と頷いた。どうやらヒロシもこの話題に興味津々みたいだ。ヒロシは眼鏡をかけ直すと再び口を開いた。


さんの補習の手伝いを遅くまでする柳くん、部活後にはすぐにいなくなってしまう真田くん・・・何か臭いますね」
「だろぃ?あーなんかどうにかしてヤツらの動向窺えねーかなー。柳はそういうの徹底して表に出さねーしな・・・」


うーんと俺が考えあぐねていると部室の扉が開いた。噂の渦中の人物の誰かと思い口をつぐんだがどうやら違かったみたいだ。ハツラツとした挨拶が飛び込んできて、それは俺たちの一番可愛い後輩の元気な声だった。


「ちーっす!先輩たち!元気っスかあ?たまにはコートでだけじゃなくて先輩たちが寂しがってると思って、俺、来たッスよ!」


ジャッカルは相変わらず生意気な赤也を温かく迎え、ヒロシは「ちーっすとは挨拶ではありません、切原くん」といつも通りたしなめる。俺は赤也が来た途端素晴らしいアイディアが浮かび、思わず赤也に向けて叫んでいた。


「そうだ、赤也!お前が行けばいい!」
「な、何スか?いきなり?」
「お前が事情を探ってくればいい!」
「は???何の???」
「切原くんに、ですかねえ・・・まあ確かに彼は適役かもしれませんけど・・・」
「???先輩たち一体何の話してるんスか?」
「赤也!先輩命令だ!にそれとなく『最近真田先輩とどうなんスか?』って聞いてこい!」


すると赤也はキョトンと首を傾げたがしばらく黙るとなにか思いついたように目を輝かせた。


「何か先輩たちの間にあったんスか!もしかして二人共遂にヤッちゃたとか?」
「ななな、何言ってるんですか切原くん!はしたない言動は慎みたまえ!」
「それならまだいいんだけどどうも最近な・・・何か二人とも様子が変でよ・・・あんま話してねーみたいだし・・・」


ジャッカルがうまく柳の事を言わずに返した。そうだな、柳の事は言わない方がいい。赤也はダブルスを組んでた柳に一番懐いている(躾けられている?)ようだし、他人の彼女を柳が取ろうとしてただなんて疑いを持ったらショックを受けて後輩たちに言いふらしそうだ。しかも確定情報ではないので三強の尊厳を損ねる噂は良くない。ナイス、ジャッカル!


「えええ!!先輩と真田先輩うまくいってないんスか?!」
「いや、それが分からねーからお前に聞いてきてほしいんだよ、赤也」
「嫌ッス!俺は二人が別れるとか嫌ッス!!あの二人には結婚まで、最後まで行って欲しいじゃないッスかあ!!ちょっと行ってくるッス!!」
「あ、赤也ー!くれぐれも俺達が聞けって言ってたことは・・・ってああ、もう行っちまった・・・あいつ・・・ヘマしないといいけど・・・」


俺は赤也が鼻息荒く突進するかのように部室を出て行ってしまったのを見て、大丈夫だろうかと後輩の暴走に危惧を抱いた。まあ、確かに赤也が言ってた事はここにいる皆が満場一致で思ってる事なんだけどな。まあもう行ってしまったことだし、あとは結果を待つのみかー、と俺は気楽に気構えながらジャージに着替えるのであった。











* * *









蓮二は昨日から補習に来ない。生徒会の仕事が立て込んでいるようだ。というのは口実だろうけど。まだお互いに気まずくなるだろうから、少し距離を置いてくれてるんだろう。けど、あたしの弦一郎との距離はまだ縮まっていない。相変わらず弦一郎と話す時間はほとんどないし、帰りには忽然と消えてるし、この前蓮二に告白された後の決意が鈍るような・・・。ってダメダメダメ!そんな事で簡単に決意を鈍らせちゃダメよ、!と、さっきからぶつぶつ独り言を呟きながら問題を解いてるもんだから全然進まないし、計算間違いばっかり。蓮二が貸してくれたノートと問題用紙をにらめっこするのに飽きてあたしは机に突っ伏した。集中力なんてもともとゼロに等しいんだ。もう補習は今日で終わりで課題もこれ提出すればいいだけなんだけど・・・ラストスパートだけがかけられない。勉強なんて大嫌いだ。勉強しなさすぎて親に「あんたほど勉強しない子はいない」と昔言われたなあ。確かに、小2で掛け算のテストで0点を取るようなバカはあたし以外にはこの学校にいないだろう・・・。とかなんだか思っている間にガラッと扉が勢いよく開いたのであたしは小さく「ぎゃっ」と叫んで漫画みたいに椅子から少し飛び上がってしまった。


「あっ!先輩!いた!!」
「な、なんだ・・・赤也か・・・。ってなんで赤也こっちの校舎にいんの?!」
「なんだってヒドくないッスか、センパイー!俺チョー先輩のこと心配して来たのにー!!」
「心配???あ、補習???大丈夫補習ならさっき終わって課題これだけ出せばいいから・・・」
「補習???先輩補習受けてたんスか???」


全然噛み合わない会話にあたしは頭に疑問符を浮かべながら久々に自分を訪ねに来た後輩に少し喜びも感じた。しかしこの可愛い後輩、赤也はなんだか必死な様子。本当にどうしたんだろう???


「ちょっと赤点取っちゃって補習受けてたの。本当にどうしたの?何の心配?あ、飴でもいる?」
「わーい飴ちゃーん!!ってそんな場合じゃないでしょ、先輩!!」
「へ?赤也の好きないちごミルクの飴だよ?」
「そーじゃなくって!!先輩、真田先輩と別れちゃうんスか?!」


あたしは思わずブーッと吹き出し、いくら後輩といえど男の子の前ではしたない格好を晒してしまった。しかし、確かにすれ違いばかりでうまくいってないといえど・・・っていうかどこからそんな情報が!!


「ちょっと何よそれ!どこから聞いたのよー!!」
「本当に別れちゃうんスか?!嫌ッス!!俺は嫌っスよ!!」
「・・・へ?なんで赤也が嫌なの?」
先輩真田先輩の事キライになっちゃったんスか?!」
「えっ・・・いや・・・そ、そんなことは・・・ていうかむしろ・・・」
「むしろ?!」


まごつくあたしに目を血走らせて必死に迫る赤也。あたしは火照る自分の頬を感じながらも、赤也から視線を逸し、小さく答える。


「す、好きだけど・・・・・・?」
「は〜・・・良かったッス!!俺、今時珍しー二人の純愛ロマン劇にはゴールインを迎えてほしいんスよ!!ていうか、真田先輩は先輩にしか手に負えないっつーか、あの堅物な真田先輩を理解できるのは先輩しかいないっていうか!!」
「赤也、あんた今弦一郎がいたら鉄拳百発は食らってるよ・・・」
「とにかく俺は二人が別れるとか嫌なんス!」


本気で言ってるのか興味本位で言ってるのか、まあこの必死な説得のしよう、赤也の事だから両方だろう。でも、そこまで言われるのもなんか嬉しいな。あたしにしか、弦一郎を理解できない?そんなことはないのかもしれない。弦一郎のファンって、本気で弦一郎を好きな子いたりするから。でも、それでもあたしだけしかいないなんて言われると、公認みたいで、認められてるみたいで。あたしの顔の赤らみは引かずにいたけれど本当に、嬉しい。


「分かった、分かった。赤也落ち着いて。たぶん・・・大丈夫」
「ホントッスか?!」
「うーん、たぶん。ありがと、赤也。ちゃんと話すよ、弦一郎と」


この率直で素直な後輩は、ほんとにもう。あたしは赤也に飴を渡しながら赤也のくせっ毛を撫でる。赤也は少し頬を赤く染めて、「良かったッス!」と嬉しそうに微笑んだ。こいつ、初めは全然言うこと聞かない生意気な後輩だったのに懐くとこんなに猫みたいにゴロゴロ喉鳴らすだなんて。でも赤也のおかげで頑張ろうという気が俄然と湧いてきた。練習後、姿を消す弦一郎。何してるのかな、とか話してなかった期間何を考えてただろうか、とか蓮二の事話さなきゃ、だとか。話さなきゃいけないこと、気まずくなりそうな話題ばかりだけれど。嫌なことでもちゃんと目を向けなければ。ああ、そうだ。この大問があと3問も残っているプリントだって。


「ほら、赤也。皆心配してるよ。部活に戻りなさい。あたしはこのプリント終わったら行くから。赤也、部長なんだからしっかりしないと」
「ウィッス!結果、楽しみにしてますねー!」


結果ってなんの結果だ。あたしは弦一郎に話した結果後輩に報告しなきゃいけないのか。あたしは笑顔でぶんぶん手を振りながら去っていく赤也を見送りつつ内心冷静にツッコミをする。まあ、でも皆に心配かけてしまっていることだ。明日弦一郎と話そう。そして弦一郎としっかりと話せたら、ちゃんと皆の前で弦一郎と前みたいにいつも通りお喋りをしよう。そう、前みたいに弦一郎にイタズラしかけて怒られよう。弦一郎なら・・・分かってくれるよね?あたしは先程の赤也の様子を思い出し、小さく笑いながらこのプリントの難関な問題にとりかかった。その難易度は、今のあたしと弦一郎が抱えてる問題と同じ。






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