37   『ふつう』の歪み

110224



何となく、平穏で平和。それってなによりも素晴らしいのかもしれないなあとこの年で思うとかあたし年老いすふぎ???ネットでやった精神年齢診断とかで27歳だったんだけど!でも弦一郎とかやったらどうなるんだろう・・・でも以外と子供っぽいとこもあるしなあ。今度やらせてみよっかな!とか考えてる始末。もう、本当に平和って素晴らしい。中学三年間山あり谷あり生活だったし、もちろんこれからも全国大会へ向けてもそれなりに大変な毎日が待っているんだろうけど、とりあえず精神的にすごく落ち着いてる。弦一郎とも仲直りして、今もとっても仲良しだし。それになんか弦一郎の月刊プロテニスのインタビューの後から前よりもっと優しくなった気がする。以前だってもちろん優しかったんだけど、それよりもっと。ちょっと大人になったっていうか。弦一郎のクセに包容力があるというか。あーもう!!!!なんであんなに弦一郎はかっこいいの!!!!!!とか一人休み時間中悶絶してたら上から聞き慣れた声が降ってきた。


「何一人でニヤニヤしてるんだい、?いくらなんでも気味が悪いよ」
「・・・・せっちゃんそういうことはもっとオブラートに包んで言って」
「何を今更」


せっちゃんは毒のある笑顔で平然と言ってのける。そのあまーい笑顔に幾人が騙されていることか。あたしはせっちゃんがクラスに来て舞い上がってる他の女子生徒を見ながら思う。


「で、何考えてたんだい?」
「・・・内緒」
「そう言うと思った。どうせ真田のことだろう」
「(ギクッ、図星。)」


せっちゃんは意地の悪い笑みを浮かべて言う。そう、その通りです。とあたしの顔には書いてあるんだろう。あーあ、分かりやすいっていうのもちょっとはどうにかならないのかなあ。


「ほら、図星だ」
「うー、いいじゃん別に」
「ああ、別に悪いだなんて言ってないよ。が幸せなら別になんでもいいしね」


せっちゃんは恥ずかしげもなくそんなころをサラッと口にしてしまう。あたしはちょっとジーンと心に打たれながらも、たまにはにっこりと微笑んでみた。


「・・・こんな彼女がいて、真田こそ幸せさ」
「ん?何か言った???」
「いいや」


せっちゃんがぼそりと言った言葉はあたしの耳には届かず、あたしは不可解な顔する。するとせっちゃんはいつものように優しく笑って、チャイムが鳴る前に颯爽と教室を去っていってしまった。











* * *









、おるかの」
「え、あ、は、はい!今呼んできますね」


いかん、いかん。これは全くもっての一大事じゃ。困ったことになったの。俺は頭を抱えながらに相談しに来、そしてクラスメイトにを呼ぶように頼んだ。


「なあにーにおー」
「おお、。おまんに聞いてもらいたいことがあっての」
「なになに、珍しいじゃないの。で?」
「それがの・・・」


俺は簡潔に悩みを相談した。相談するうちにの顔はみるみる内に真剣な顔から驚きへと変わっていく。


「り、古江さんが・・・?」
「ああ」
「仁王の・・・こと好き、と?」
「ダニ」
「えー・・・まあありえなくはないけど・・・あんたモテるしねえ」
「・・・なにか不満かの」
「いや別に」


はそう言って俺を舐めるように俺を見る。なんじゃ、その目付きは。そんなに俺が汚らわしいみたいな目付きせんでもよか。


「でも別に何も困ってないんでしょ?それだけで」
「それがのう・・・なんかストーカーされとるみたいで怖いんじゃ」
「ストーカー???」
「ああ・・・いや、そんな陰湿なもんでもない、ただちーと、自分にひっつきすぎなんじゃなかろうて」
「どんな風に?」
「移動教室の時に、好きな席に座ろうとするじゃろ。そん時に必ず前か後ろにおるんじゃ」
「はあ」
「休み時間もいつどこにいるか分からん俺のはずなのに、何度も見かけたりしての・・・偶然かもしれんあ」
「えっそれはすごいね」


仁王の後を追いかけるなんてすごい、みたいな感心した顔をしては頷く。そこは感心するとこじゃない。


「それに」
「うん」
「ほんまに気のせいかもしれんが、最近女子が俺に寄りつかん」
「・・・ん?」
「あいつがおるとこで俺の傍に女子がいた試しがない」
「え、何それ」
「まあ、ここ2週間程度のことじゃき、ほんまに気のせいかもしれんがの。何か知っとることあったら教えてくれ」
「あたしも古江さんからなんも聞いてないしなー・・・うーん・・・」
「少し、気味が悪うてのう」
「・・・・・・」


どうやら思い当たる節はない、というようなしかめっ面をしとる。うーん、と唸るは面白いのう。


「まあ、ええんじゃが。今のところそこまで深刻な問題ではないき」
「でもなんかひっかかるね・・・まあ訊けたら仁王のクラスの子に聞いてみるわ」
「おお、ありがとな」
「いえいえ。でもまあ、古江さんは悪い子じゃないし別に大丈夫だとは思うよ」
「そうだとええが、な・・・」


すると梅雨のせいでじめじめとした廊下から暑苦しい気配がする。この気配は・・・


「仁王、ここで何をしている」
「おお、真田。なんじゃ、にようかの」
「あ、弦一郎」
「なんだ、お前もに用か?」
「もう俺のは終ったき、お熱い二人でゆっくり話すとええ」
「なっ、仁王っっ!!!」
「何を言う!!!」


皇帝でさえ顔を真っ赤にして怒鳴っている。あーこいつらをからかうのは面白い。本当にこの二人は単純じゃのう。道理で部員がこいつらをイジる対象にするわけじゃ。俺はひとつに束ねた髪を翻してさっさとその場を退散した。こいつら二人をからかうのはええんじゃが、ちとうるさいのが、な。


雨の止まない天気を、窓を通して見つめる。グラウンドの土はいつもの色より濃く、幾つかの大きな水たまりが浮かんでいるのが上から見える。じゃぶ、とローファーがその水たまりに沈むのを俺は思い浮かべる。泥水は、じわじわと靴下とローファーに染み込むだろう。


古江は悪い子じゃない・・・か。俺の勘が当たらないとええが。普通の子に見えるんじゃがのう・・・。俺はふう、とため息をつき、後ろを振り返る。と真田が仲睦まじそうに話しとる。こんなに鬱々とした日なのに、あいつらはええのう、暢気で。どうせ今日もテニスは中で練習じゃき。俺は教室に戻るために踵を返す。今年の夏は、多く台風が来そうだ。






<< TOP >>