25   お節介ものたちの会合

090426



それは全国よりほんのすこし前。幸村くんが部に戻る前の話だ。部員たちはこのうだるような暑さの下での練習の合間の休憩を、太陽の容赦ない日差しを避けるように部室へと逃げ込んでいるときのことだった。


「あ゛ー・・・マジ暑ぃ」
「これでは日射病になるのも時間の問題ですね」


柳生はこの暑いのにメガネも外さず、タオルで汗の滴る顔を拭う。顔拭くときぐらいメガネ、外せよ・・・俺は前々から思っていたことを口にすることなくその行為を横目でちらちらと見ていた。仁王は床に座っての作ったドリンクを飲んでいる。体を冷やすといけないから、といってドリンクには氷が入っていない。けれど火照った俺たちの体を冷ますには、ドリンクの冷たさだけでもありがたかった。


「あー生き返るぜよ」
「絶対この部室にエアコンつけるべきっスよ」


赤也はうちわでぱたぱたと顔を仰ぎながら抗議した。まぁ、真田が聞いたらきっと「この程度の暑さに耐えられんなどたるんどる」とか言って一蹴するだろうが。前にも似たようなこと赤也に言われてそー言ってたし。つーかこの程度の暑さ、っつっても今日はマジで暑い。朝に見てきた天気予報では今日の昼は38度になるらしい。地獄の業火にでも焼かれてるかのような暑さだっつの!


「しかしエアコンは弦一郎が賛成しないだろう。ましてやこの暑い日にエアコンをガンガンつけていろうものなら尚更だな。体調を崩す」
「前にもそー言われたっスよ・・・」
「諦めるのが賢明だ」


赤也ははーっと足を伸ばすように座り、床に向かって溜息ついた。他の部員も木陰で倒れていることだろう。


「なんかこの部室臭くないか?」
「汗くせーだけだろぃ、ジャッカル」


ジャッカルがくんくん、と自分の体の匂いをかぐ。確かにこの部室は熱気と部員の汗臭さが立ち込めている。がこの中に入れば顔をしかめるだろーな・・・。俺は薄れゆく思考回路のなかでぼんやりと思う。しかし、あれだ。そういえばが先ほどから姿が見えない。真田もだ。


「真田とは?」
は他の部員たちの世話をしている。熱射病になったものもいるからな」
「あー。真田は?」
「顔を洗いに行くと言っていた」


涼しげな顔で淡々と柳はそう述べた。あー暑くなさそうな人はいーですねー俺は柳という人間が暑さや寒さを感じるのか検証してみたくなった。どんなに気温が変化しようと、この男は眉ひとつ動かさねぇ。しかしこの暑さだと何する気も起きなくなる。俺はガムを噛むのさえも面倒になってきたところだ。


「そーいや、あいつらいつになったらくっつくんだろーな」
「あ、俺もそれ思ってた」


ジャッカルが話に乗ってきた。俺がそう一言いうと、部員は話し込むように円陣を組むような形で耳を傾けてきた。なんだなんだ、みんな食いつきいいな。まぁ、誰もが気になる話なんだけどな。


「もう1年前のことでしょうか」
「おお、そんなになるかのう」
「マジ先輩達ニブすぎっスよ」
「いや、あいつらはもう互いの気持ちを確認済みだが」


えっ?!柳以外の部員は声をあげた。マジかよ。俺は一言言うと、柳は「本当だ」と至って表情を変えずに頷いた。


「じゃ、じゃあもう先輩たちは付き合ってるんスね?!」
「いや、そうでもない。互いの気持ちは知っているが、付き合っているとは聞いていない」
「はあ?真田、何やってんだよ」
「お互い好いとうのに付き合うてないなんて変な話があるかの」
「確かにそれは野暮ったいですねぇ」
「まぁ、あいつららしいといえばあいつららしーけどな・・・」


ジャッカルがそう言えばみんなもミョーに納得してしまう。たしかにそーいえばそうかもしれない。あいつらの初心すぎるとこは誰もが承知の上だかんな・・・。


「それにしても幸村はそのことを知っとるんか?」
「ああ」
「幸村くん怒りそうだな、コレ」
「そうですね、幸村くんはさんをとても大事に思っているようですから」
「つーか俺はむしろなんで部長と先輩が付き合ってないのかが謎っスよ」
「まー俺らにわかんない強い絆ってのがあいつらにはあるんだろ」
「それにしたって真田ってマジ奥手なんだな・・・」


俺がそうつぶやけば、周りはそれが当然かのように呆れた顔をする。あいつらがくっつかない間俺たちは幸村くんの機嫌や理不尽な指示に答えてきたというのだ。俺たちレギュラーにとっちゃいい加減くっついてほしいところだっつの。


「けれど最近さんと真田くんが話しているところを見ませんね」
「真田のことじゃから関東での責任を感じて・・・ってところで話さないようにしてるんじゃろ」
「それじゃ、がかわいそうなんじゃないか?」
「付き合いが長いことを考えればきっとはそれを理解しているとは思うが・・・」
「つか、先輩最近たまにすごく悲しそうな顔するんっスよ、ぜってーそれのせい」
「それ最低だろぃ、が不憫すぎね?」


俺は憤慨してそう言えば、赤也もそうだそうだ、と真田にいつもある不満のせいか熱心に頷く。俺だったら自分の好きな子が自分を好きだってわかった時点で大事にする。つーかそれが普通のことなんじゃないのか?しかし柳は苦い表情をして、乾いた笑い声をあげた。


「しかしはそれを仕方ないと思っている。それにはそれを踏まえて弦一郎が好きなのだろう。」
「うわ、先輩チョー一途・・・副部長が恨めしいぜ・・・」
「つかなんの進展もないのがおかしいんだよ、普通だったらキスのその先ぐらいいってたっておかしくねーって」


俺は風船状にガムを膨らます。するとその話に興味を持ったのか仁王がそうじゃの、とのっかってきた。そーいや、赤也は話に夢中になってうちわを扇ぐ手を止めてる。ま、コイツはのこと大好きだかんな。


「そんなに好かれとったら嫌でも手出してしまうのにの」
「こら、仁王くん!」
「そーっスよ、それに先輩っスよ!」
「けっこーかわいいからな、あいつ」
「なんだ、ジャッカルに気でもあんのか?」
「バカ、んな気あったら真田に殺されるだろ!!」
「俺先輩みたいな彼女欲しいっス・・・」
「赤也、それ真田の前で言ったら殺されるぜよ」
「しかしまぁ、さんのようなチャーミングな女性であれば他の方をあたっても良い気がしますが」


コイツ!!!みたいな目でみんな柳生を振り返った。毒舌だな、こいつ・・・。なんですか?と不快な表情を浮かべる柳生はメガネのフレームを押し上げた。でも確かにそうだ。あいつ、なんで真田を好きなんだろ。マジ謎。


「そうっスよ、なんで真田副部長なんスかね」
「なんだかかわいいだからだとか前言っていたような・・・」
「「「かわいい?!」」」
「いや、なんか真面目だからからかわれるところが・・・とかなんとか前言っていたようだが・・・」
「マジありえねー・・・!それはないっスよ」
「俺にはそれは理解できねーな・・・」
は少々変わり者だからな・・・俺は先にコートへ戻るとする」
「それにしても老け顔好きなんかの、は・・・」
「それは真田くんに対して失礼でしょう」
「(お前それよりももっとひでーことさっき言ったじゃねえか・・・)あとジャッカルからなんか聞かなかったのか?」
「あー・・・なんか厳しいけど優しいとかかっこいいとかなんか言ってたぜ。俺もよく覚えてないが」
「恋は盲目ってやつっスね・・・」
「まさにその言葉がにぴったりじゃの・・・」
「いいじゃないですか、盲目すぎてもあれですが、一途なのはいいことですよ」
「それにしても先輩、普段はそんな、副部長のことかわいいだのかっこいいだの思ってるようには見えないっスけどね・・・」


赤也がそう言った時に部室の扉が開いていることに俺は気付いた。つか、みんな話に夢中になって誰も気づいていなかったらしい。真田が顔を真っ赤にしてそこにでくの坊みてーにつったってた。・・・・・・これは面白いことになった。


「ふ、副部長きいてたんスか・・・!」
「人が居ぬ間になんの話をしているのだ!!!」
「まぁまぁ、真田落ち着くぜよ。がお前さんのどこを好きか話していただけじゃき」


すると真田はそれがどうも気になるらしく、怒鳴っていいのかどうすればいいのか分からずうろたえて口を真一文字にきゅっと引き締めてわなわなとふるえている。顔は真っ赤だ。ちょ、マジでこれウケる・・・!いつもはあんなに偉そうにしてる真田が赤面して、百面相してるのは本当におかしい。俺は大声を出して笑いたい衝動を抑えてぷるぷるとふるえている・・・・赤也もだ。


「真面目なところが好きなんだと、それにかっこいいとか言っとったな。のうジャッカル?」
「・・・あ?ああ・・・」
「お前さんのその不器用なところも踏まえて好きだとも言っとったかの。」


仁王がもてあそぶように言うと、真田は何かを言おうとして口をぱくぱくさせたが、嬉しいのか恥ずかしいのかなんなのやらそれは声にはならなかった。マジで、これは、ヤバいほど面白い光景だ・・・・・・!俺は頬の筋肉がぴくぴくして痙攣して引き攣ってるのがバレないようガムを噛みまくった。赤也は顔を手で覆っている。


「お前さんがかわいい、だと真田」
「ひ、人をおちょくるのもいい加減にせんか、この大たわけ者がーっっっ!!!!!!」


これは相当ヤバい。前にもこんなのがあった。真田の大噴火とともに俺達は急いで部室から一目散に逃げた。しかし逃げる途中みんなニヤニヤの嵐で、真田が怒って俺たちを追っかけてくる間もみんなのニヤニヤは止まらない。マジで面白いもん見せてもらった。途中が氷水入りのバケツとタオルを抱えながら俺たちの追っかけっこを見て、「この暑いのによくやるねぇ」と疲れ切った顔で呟いた。そのおかげで真田はぴたりと止まり、真っ赤にした顔でに何か話しかけようとしているうちに俺達は各コートへ散っていた。あの後真田はに何言ったんだろうか。きっと小首を傾げて「なに?」と不機嫌そうに言うにでも腰砕けになってんじゃねえのかな。


俺はさまざまな憶測を張り巡らし、練習にそろそろ戻るかとラケットを取りに戻る。あ、そーいや柳は真田が追っかけてくるのを分かってて、それで先に逃げたのか。ずるいやつ。ちらりと戻ってきた方を見れば真田が何も言えないうちにがすたすたと部室へと戻っていくのが見えた。あいつ、自分のことがネタにされたって夢にも思わねーんだろうな。ぷぷ。その後あの場にいた者全員真田にしごかれまくったのは言うまでもない。くそ、柳のヤツめ・・・・・・!!






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