(36〜37話辺りのお話)

わたしは今朝からずっとそわそわしていた。綺麗にラッピングされた長細い箱を鞄に忍ばせて。朝練では皆口々にお祝いの言葉を弦一郎に伝えた。けれどプレゼントは後のお楽しみに、と思って今日は一緒に帰って真田家に上がらせてもらう約束をした。弦一郎にあげるプレゼントはイタチの毛の小筆だ。これが高校生にとってはなかなか高い。けれど、年に一度の大切な人の生まれた日。値段じゃない!とも思うけどやっぱりいいものをあげたかった。

「何をそんなニヤついてるんだ、
「ぎゃっ!蓮二」

何て色気のない声を出してしまったのだろうかと口を手で抑えるが、蓮二にそんな気を配る必要もなかった。大体この男はわたしが何故こんなにも浮き足立っているのか理由を知っている。相変わらず意地悪な参謀だ。

が今日のためにめかしこんできた確率100%」
「100%って今目の前であんた見てるでしょうが!」
「ああ。今日は髪型をアレンジしているのか。簡単なやり方だがとても可愛く見える」
「あ、うん、ありがと・・・」

蓮二はいつもこんな調子だから困る。一体どこまで本気なんだか。それにしても早く授業も終わって部活後にならないかな。

「これを」
「へ?」

蓮二はブレザーの内ポケットから細長い筒のような箱を取り出す。それをわたしの手に握らせた。

「これを・・・って。開けていいの、これ?」
「いや、まだ開けないでくれ。適切な指示は精市が行う」
「適切な指示???」
「ああ。それまでは開けないでほしい」
「う、うん?とりあえず分かった」

蓮二は次の授業が始まるから、と自分の席へと戻った。革で出来た筒を自分の手に、わたしはぼんやりと眺めた。なんだか大事なものみたいだから鞄にしっかりしまっておこう。

4時間目のベルが鳴ると、わたしはせっちゃんと食堂でご飯を食べようと椅子から腰を上げた。弦一郎は風紀委員での会議があるらしく、せっかくの特別な日なのに一緒にご飯が食べられない。むう。でもしょうがない。

、ちょっといいか」
「ん?ジャッコー珍しいね」

ジャッカルがわたしを訪ねにクラスまで来るなんて本当に珍しい。しかもその手にあるのはリボンがついた若草色の袋。

「これ、渡しとくな」
「これを?わたしに???何でわたしに?」
「と、とりあえず持ってろよ。あ、まだ開けるなよ。後で分かるから」

さっきの蓮二と同じ指示。うーん、ジャッカルから何かもらう習慣はないし(ジャッカルはよくブン太にお菓子あげてるけど)一体どういうことだろう。わたしは手元にある袋を見つめ、ジャッカルらしい色だなと疑問を抱えながらも納得していた。とりあえずまた鞄へつっこんでおこう。鞄にジャッカルからもらった包みをしまうと、食堂へ向かいに廊下へ出る。そこで丁度仁王とはちあった。

「おー、。ええとこにおった」
「ん?なになに?」

仁王は小さな栞を取り出して、わたしの手にポンと置いた。赤くて小さな可愛らしい花の押し花だ。手作りなようだ。

「え?なにこれ」
「見ての通り栞じゃ。持っときんしゃい」
「なに、くれるの?」
「いいから持っときんしゃい」

くれるわけではないらしい。持っとけと。蓮二とジャッカルと同じ事を言う。二度あることは三度あるものだ。ひょっとして皆わたしに物をくれるのは親切からじゃないのかもしれない。大体せっちゃんからの指示があるまで待てってなんだ。

「もーせっちゃんに聞いてやる!」

わたしは何やらよく分からないモヤモヤを抱えながら、食堂へ行進していった。お腹が空いたな、メニュー何にしようかなだなんていつもは思ってる頃だけどそんな事より皆の謎の贈り物が気になるじゃないか。

「せっちゃん!!」
「どうしたの、そんなにいきりだって。遅かったね」

にこやかな笑みを絶やさずに鯖の味噌煮定食をつついているせっちゃんはのんきにもそう答えた。わたしはせっちゃんに評されたように先程からの訳の分からない扱いにいきりだっていた。

「どうしたのじゃないでしょー!一体全体どういう魂胆?!蓮二にせっちゃんから指示があるって言われたんだから!仁王とジャッカルはいいから持っとけしか言わないし・・・」

じとりと疑いの眼差しを向けるも、せっちゃんは飄々とご飯を食べている。こういう風にせっちゃんに踊らされることはいつものことだけど、別にわたしは面白くなんかないもん。

「そう怪しまなくていいって。別に変な事は計画してないさ」
「・・・・・せっちゃんがそう言って変な事じゃなかった試しがない」
「本当だって。俺を信じてくれないのかい?」

せっちゃんは少し哀しげな目をわたしに向ける。うう、ずるい。せっちゃんはいつもこうやってわたしを丸め込む。わたしがこう言われて折れないわけがないのだ。

「そんな事ないけど・・・」
「だろ?俺を信じてよ。悪いことには決してならないからさ」

果たして本当に悪いことにはならないのだろうか・・・。今まで悪いことにはならなくても、心臓に悪いことならたくさんあった。わたしは券売機で大好きな豚とろろ丼の券を購入して、品と引き換えてもらった。せっちゃんのいつもよりも数段上機嫌な笑顔を拝みながら食事にありつくのだった。




* * *




5時間目が終わるとまた始まった。柳生がわざわざ遠いクラスから出向いてわたしにあずき色の小さな小箱を渡した。弦一郎の誕生日になぜわざわざわたしに渡してくるんだろうか・・・。「さんもいつもお疲れ様です」とかなんか気になるこというし、何なんだ本当・・・。そのまま放課後となり、わたしは4人から貰ったプレゼントを押しつぶされないようにタオルにくるんで鞄にしまい直した。しかし、これらの出番は一体いつなのやら・・・。弦一郎誕生日にサプライズやるだなんて聞いてないし、もしやるならこのサプライズの内容をわたしが知らないのもおかしいし。

「うーん、うーん・・・」
「何をそんなに唸っているのだ」
「ハッ、弦一郎!」
「何か思い悩むことでもあるのか?」
「・・・・・・ないよ!よし、練習練習!」

もしアレが弦一郎の誕生日への布石だったとしたらわたしがここで彼にばらしてしまうのはまずい。実際アレが何かはわからないけど。弦一郎は腑に落ちないようで頭の上に疑問符を浮かべながらウォームアップに入った。わたしがスポーツドリンクの補充をしている時にせっちゃんがわたしにコップを差し出しながら声かけた。ウォームアップが終わったようだ。

「今日は練習後に一年レギュラーの緊急練習ミーティング行うから早めに切り上げるよ」
「えっ、なにそれ聞いてない!1年だけ」
「だって緊急ミーティングだからね。2、3年の先輩たちは今日OBが来てるから緊急ミーティングに参加しないということだし・・・」

1年生はOBと試合する機会が今回は回ってこないから、か。でも何の緊急ミーティングだろう?地区大会までまだあるし、緊急ってほど何か問題があるわけじゃないし・・・。

わたしはとりあえずせっちゃんが練習を切り上げると宣言した時間頃に部室へと戻ると、すでにそこに弦一郎以外の一年レギュラーの部員は集まっていた。わたしを待ち構えているかのように。しかもなんだか皆ニヤケ顔で。

「な、ど、どうしたの?もう制服にまで着替えちゃって・・・あれ、弦一郎は?」
「まだ外だよ。先輩にちょっと足止めしてもらってる」
「足止め?」
「そう。ほら、時間がないよ。はこれつけて」
「はい?」

するとせっちゃんは可愛らしいレースのリボンを取り出しカチューシャのようにわたしを髪に括りつけた。それも上でリボン結びにして。

「ちょっ、やだせっちゃん何するの!こういうのわたし似合わないんですけど!外すよ?!」
「それはダメだ。それに似合ってるよ。外したら怒るよ?」
「何で!!理不尽な事言ってるのせっちゃんじゃん!!」
「これもどれも真田の為なんだよ、。分かってくれ」
「・・・?弦一郎の為・・・?」
、先程俺達が渡した物は持ってるな?全部出してもらえるか」
「あ、うん・・・」

わたしは鞄からタオルに包まれた包のを取り出すと蓮二はサッとそれを大きな紙袋に入れた。なんだなんだ。何か用意周到だな。更にその紙袋はわたしの手に持たされる。しかも仁王とかも「リボンつけたちゃん可愛いぜよ〜」とかおちょくるような声で言ってきたり、ブン太は「お!狙い!」とか言いながら写メ撮ってるし・・・。わたしはブン太からケータイをぶんどった。

「あっおい、ケータイ取り上げんなよ!」
「うっさいコレは消すわバカ!」
「こらこら、プレゼントがそんな怖い顔してちゃダメだろ」
「は?プレゼント?」
「来た!」

せっちゃんはブン太のケータイをわたしから取り上げながらわたしをたしなめた。そしてせっちゃんの合図と共に部室の扉は開かれ、同時にパパーン!!と大きな破裂音が背後からした。わたしは驚いて「ぎゃっ!」と悲鳴を上げてしまったが、入室してきたのは何と弦一郎だったのだ。クラッカーが鳴らされ、紙吹雪がヒラヒラと部室を舞う。

「「「「「「「真田、誕生日おめでとう!!」」」」」」

皆が一斉に掛け声をかけた瞬間、弦一郎は豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして唖然としている。けれどすぐに状況を理解したのか、「あ、ああ・・・」と照れくさそうに帽子の鍔に手をかけた。

「た、誕生日おめでとう、弦一郎・・・」
「ああ、ありがとう。皆もな。まさか緊急ミーティングがこの事だったとは・・・」

弦一郎は突然のサプライズ・パーティに驚きと喜びを隠しきれず顔が綻んでいた。わたしはその幸せそうな弦一郎の笑顔を見て、ますますときめいてしまう。今にも抱きつきたい程の愛しさが込み上げてきたけど、それはバーンと扉が開くけたたましい音でかき消されてしまった。

「せんぱーいっ!!!!たんじょーびおめでとっ・・・・・・あ!!」

それは赤也が大きなケーキを持ってきてのご登場。けれど赤也は扉を勢い良く開けすぎた反動で前につんのめり盛大に転んだ。その時の様子がきっと部員全員にスローモーションで見えていたことだろう。赤也は弧を描くように前に倒れていきその手にあったケーキは・・・・・・べチャりと無残な音を立て、主役の顔で潰された。

「さ、さなだせんぱい・・・っ・・・」

弦一郎はショックのせいか、ケーキをぶつけられ顔にケーキをくっつけたまま棒のように立っていた。辺りは一瞬にして静かになった。しかしどこからか、怒りが湧くようなゴゴゴゴゴ、という凄まじい音が聞こえてきた気がした。それはまさに弦一郎がわなわなと震え、怒号を上げる合図であった。

「赤也ああああああああああああああああああ!!!!!!!お前は一体どういう了見で人の顔にケーキをぶつけるのだあああああああああああああ!!!!!!!!!」
「ヒィィィッ!!いや、これは違うんス!!ぶつけるつもりじゃなくって!!フツーに先輩に渡そうと!!」
「あーあ、俺の特製抹茶ケーキが・・・」
「まあ主役の口には入ったぜよ」
「まあそうとも言えるが・・・」
「真田君も誕生日だというのに不運ですね・・・」
「ふむ、パイ投げの原理での祝いと考えれば良い」
「アッハッハッハッハッハッ!!赤也はやってくれるなあ」
「ちょっと、弦一郎これ拭かなくちゃ・・・」

わたしはタオルを取り出すと、弦一郎は赤也の襟首を掴んで怒っていたのを素直に離した。確かに、せっかくブン太の作ったこのケーキもったいないかも。わたしは弦一郎のほっぺについたケーキを取って食べる。むむ、やはり美味しい。と同時に赤也と弦一郎以外の部員から「おおーーーーっ!」と歓声があがった。何よ、何をしたっていうのよ。それに弦一郎もなんか固まってる。ケーキまみれなので表情はよく分からないけど。

「見せつけられちまったな」
「何をよ?ケーキが勿体無いじゃない!」
「俺なら真田の顔についたケーキは食わんぜよ」
「ちょ、仁王よせよ・・・」
「ジャッカルなら食うってよ!」
「お、おい・・・」
「ほらほら皆、そんな事言ったら真田が可哀想だよ。今日誕生日なんだよ?まあ俺も嫌だけど」

せっちゃんが泣き喚き半ばパニックになっていた赤也の頭をよしよし、と撫でると笑顔でそう言い放った。ちょっと皆ひどすぎ!弦一郎の顔は別に不潔じゃないもん!!

「しかしその姿のままでは気持ちが悪いだろう、弦一郎。シャワーを浴びてきたらどうだ?」
「そうだな、もうそのまま真田は帰っていいよ。がいればいいだろう?」

先程まで固まってた弦一郎は、せっちゃんの呼びかけを理解したのかも怪しく小さく「あ、ああ・・・」と呟いてのろのろと部室を出て行った。弦一郎、どうしちゃったんだろう?わたし何か変なことしたかな。シャワー室に何も持って行ってない弦一郎を見越して、わたしはタオルと制服を掴んで部室を出て行く。その際に「がんばれよー!!」だなんて掛け声を後ろからかけられて、ああもうわたしったら絶対部員のおもちゃにされている。まあ皆わたしを見守ってくれているのは分かってるんだけどね。

シャワー室の前まで行くけれど、ここは男子専用シャワー室。今の時間に浴びる生徒はなかなかいないのだけれども、この前でウロウロするとなんだか不審者みたいだ。けれど弦一郎はタオルを持って行ってないだろうから、奥のシャワールームまで届けてあげないといけないんだけど・・・。万が一誰かがいたらどうしよう。というか、弦一郎が傍でシャワー浴びてる所に行くのが!!一番まずい!!ドキドキと心臓が脈打つ。弦一郎は筋肉隆々だから、それはそれはとても逞しい筋肉なんだろうな・・・・・・ってハッ!わたしは一体なんて事を考えてるんだ!!自分急激に熱くなっているのが分かる。けれど、タオルがなくて困るのは弦一郎だから・・・!あーーーーーもう入ってしまえ!!!わたしはあーだこーだ考えている自分に腹が立って敏捷な動きで男子専用シャワー室の更衣室に入った。よし、誰もいない。第一関門はクリア・・・!そろりとシャワールームへと忍び込んだ。更衣室の着替えの籠には弦一郎のジャージしかない。じ、ジロジロ見ちゃダメ!げ、げ、弦一郎の下着があるかもしれないんだから!(ふんどしだろうけど)シャワールームのドアをそーっと開ける。シャワールームは個人ブースとして仕切りが設けられているのでここからは見えない。けれど、シャワーが床を叩きつける音、そして仕切りの下から見える弦一郎の足・・・。わたしはゴクリと生唾を飲み震えた声を絞り出した。

「げ、弦一郎?!」
「・・・?!?!何故ここに?!」

弦一郎がドンッとどこかに体のどこかをぶつける音がした。あちゃー・・・まあそりゃあ無理もない。わたしも今ものすごく目が泳いでいるはず。心臓の激しい音も鳴り止まない。

「女子がここに来るなどはれん・・・」
「た、タオルと制服持ってきたの!!弦一郎持ってきてないと思って!!ぶ、部室に荷物取りに行ってくるね!!」

わたしは弦一郎がみなまで言うのを待たずにシャワー室を転げるように出て行った。だって一枚の板を隔てた先には裸の弦一郎がいるんだよ?!そんな、好きな人がそんなあられもない姿でいるなんて・・・!キャー!!わたしは恥ずかしいやら邪なんやらよく分からない葛藤のパワーで全速力で走り、部室へと戻った。けれど部室にはすでに誰もいなかった。

皆気を利かせて先に帰ってしまったのだろう。わたしは自分の鞄と、そして弦一郎のテニスバッグにスクールバッグを抱えた。う、尋常じゃなく重い。弦一郎まだ真田家の石でも入れてるんだろうな・・・。わたしは自分のロッカーに忘れ物がないかと一目確認すると、先程の紙袋が置いてあった。コレを忘れてはマズい。ん?なんか貼り紙が貼ってある。

『真田へのプレゼント渡しておいてね!俺からのプレゼントはだっていうのに気づいてた?』

せっちゃんの恥ずかしい貼り紙をすぐに剥がしてぐしゃぐしゃと丸めてゴミ箱に投げ捨てた。せ、せっちゃんったら一体何考えてんのよっ!!わたしはハッと頭のレースのリボンが何を意味しているかが分かった。わたしをプレゼント!だなんて発想今時というかそんな事出来るわけないだろーが!!と一人でせっちゃんのロッカーに向かって毒づきながらも頭のリボンは外さなかった。そして紙袋の中身を確認するともうひとつ透明なプラスチックな袋にお粗末にメモ用紙が貼り付けてある包みが追加されていた。ハハン、どうせこれは赤也のものだろう。わたしはせっせと床に一度置いた荷物をシャワー室へと運び始めた。まず自分のスクールバッグと弦一郎のテニスバッグだけシャワー室の前に置いて、すぐに戻り弦一郎のスクールバッグを引きずりながら持ってきた。ふう、一汗かいたわ。弦一郎が誕生日なんだもん、これくらいのことしたっていいよね。

わたしが荷物を運び終えると間もなく弦一郎がシャワー室から出てきた。顔が合うとお互い赤面して目を逸らしてしまう。だって、だってすごく恥ずかしい。本当はこれから一緒に帰るだなんて耐えられる気がしない。恥ずかしさでわたしは爆発してしまうかもしれない。ガチャリ、とシャワー室の扉が開くとわたしはビクリと肩を震わせた。弦一郎が、タオルで髪を拭きながらわたしを見下ろしていた。けれど瞬時に互いに目線を外してしまう。どうしよう、恥ずかしくってしょうがない。

「タオルを・・・ありがとう」
「う、うん」
「しかし他に男子がいたらどうしたのだ!!全くもってたるんどる・・・」

けれどそういう弦一郎の口調は穏やかだ。わたしは誰もいない事を確認するとぎゅっと弦一郎の腕を抱きしめた。

「お、おい!」
「だってなんかすごくこうしたくなっちゃったんだもん」

弦一郎を見上げると、まだ濡れて乾ききってない髪が首筋についている。タオルを肩にかけ、少し濡れた髪がセクシーでドキッとしてしまった。弦一郎は戸惑いながらもわたしの頭を撫でてくれた。

「荷物も持ってきてくれたのだな、重かったろう」
「う、うんちょっとね。あ、これ皆からのプレゼント。皆帰っちゃったみたいだし帰ろ?」

紙袋を渡すと弦一郎は「む、ありがたいな」と言って受け取った。弦一郎はまだ髪が乾いてないのか帽子をしまい、帰るのかと思いわたしは腕を離した。校門まで弦一郎にひっついているのに誰かに見られたらマズイと思ったからだ。というかこちらが恥ずかしさに耐えられない。歩き出すのかと思えば弦一郎は目を辺りに配せるとこちらに向き直る。わたしがどうしたの、と口を開く前に弦一郎の顔が近づいてきて、わたしに口づけを落とした。小さなキスだったけれどわたしは弦一郎の学校での大胆な行動に目を見開き恥ずかしながらも驚いた。

「す、すまない!そのだな・・・い、いつもと違うなと思ったんだ!」
「えっ?」
「その・・・頭につけているではないか」
「あ、ああ!」

わたしは弦一郎が何を言いたかったのか理解したと同時にせっちゃんが「俺からのプレゼントはだっていうのに気づいてた?」とメモに書いていたのを思い出して頬が赤く染まる。

「こ、これは!せっちゃんが変な事言うから・・・!」
「変な事?」
「う、ううん何でもない!に、似合わないよねこれ・・・も、もう取るね!」

わたしがリボンを外そうとする手を掴むとまた、唇が降ってきた。今度は短くなくて、長く情熱的なキス。弦一郎が少し唇を離したと思えばまた角度を変えてわたしの唇を包み込む。熱い唇がわたしの思考回路を溶かしていく。腕を掴まれ、壁に迫ってくる弦一郎に抗えない。やっと長いキスを終え、わたしは顔を上げると弦一郎がとてつもなく照れているのか、目線を外していた。

「に、似合っているぞ。だから・・・外すな」

頭をぽりぽりとかくその姿にわたしはまたきゅんとハートがときめいてしまい、弦一郎に勢いよく飛びついてしまった。さすがの弦一郎はわたしが飛びつくのを受け止めてくれて、頭を優しく撫でてくれた。もう、本当に大好き。大好きっていう言葉じゃ足りないくらい・・・。

「改めて・・・お誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとう。こんなに嬉しい誕生日は初めてだ」

わたしはぎゅっと弦一郎を抱く腕を強めると、弦一郎も抱きしめ返してくれた。大好き、という気持ちが言葉を通じなくても伝わる。なんて素敵な事なんだろう。これからもずっとずっと、貴方の事が大好きよ。どんな困難も一緒に乗り越えて行こう。どちらかが挫けたとしても必ず支えあっていこう。そんな、素敵な二人になれたら。

「帰ろうか」

体を離してわたしに振り返る弦一郎。門を出て、つなぐ手はきっと温かいんだろうな。この幸せが、いつまでも続きますように。夕焼けに照らされたわたし達は祝福の光に包まれていた。



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