02  ファースト・インプレッション

081029



あたしがシカゴから帰国して1年経とうとしていた。小学1年生の時にも通っていた南湘南小学校へと編入という形で戻り、近くの立海大付属中を、高等部に上がる4つ上の姉を追って受験したところ運良く受かった。小学校1年と6年の時同じクラスだったせっちゃんも同じ進路を辿ることになり、けれど見事にクラスが別れてしまったところだ。だからクラスで待ち構える新しい出会いは必然的なものだったんだ。



「あ、えっと真田?おとなりしばらくよろしくね」
「ああ。こちらこそよろしく」


ただただ、なんの変哲のない挨拶から始まった。真田は自己紹介でそれこそ当然だ、というかのようにテニス部に入ると断言した。同い年の割にはしっかりしてる男子だなぁ、と思った。第一印象こそ普通だった真田だけど、話していく内に言葉遣いや仕草や嗜好が、ものすごくものすごーく今時の日本男児にしては珍しいと思った。まぁ日本男児って、あたしはまだ数える程しか知らないけど。



そんなあたしは誰かの役に立つことが大好きだった。日本に帰ってきて、日本という独特の文化に魅了されたのかあたしはどうやら文化的なものが好きで、剣道と書道を帰国直後から始めた。小学校を卒業したと共に道場も卒業したので剣道部に入ろうかと迷ったりしたけれど、全国大会優勝という肩書きを背負った男子テニス部の役に立ってみたいとも思った。せっちゃんもどうやらジュニアのテニス大会では名の知れた選手で勿論入部するとのことだったのであたしがマネージャーに就くのはごくごく自然な流れだったと思う。せっちゃんは、あたしのお気に入りのクラスメイトでもあったから。


あたしがマネージャーに就くと、まもなく3年のマネージャーの先輩が引退したらしくあたしは錦先輩たちがマネージャーの仕事を教えてくれる通りに動いた。どうやら2年にはマネージャーがいなくて、人手不足で困っていたらしい。3年の先輩はもし1年にマネージャーがいなかったら引退後もマネージャー業をやろうと思っていたらしいけど、あたしが入部したことでそれは必要なくなった。せっちゃんや真田、そして柳を筆頭に立海はまた再び全国で名を上げた。1人で仕事をこなすのは大変だけれど、実績を確実に残すテニス部のマネージャーはまさに天職だったと思う。


別にそれまであたしは真田をあまり意識したことがなかった。先輩を負かしたりしてすごいなぁ、とは思っていたけど全国制覇を成し遂げた彼らはやはり凄いのだと思


「感傷に浸っているところ悪いんだがそろそろ飽きてきた」
「なんで?!あたしがこう、人生を淡々と物語っているってーのに!」
「第一お前の説明は長ったらしい。分かりやすくはあるが、これでは聞く側も飽きてしまうだろう」
「せっかく人がさー涙を飲んで昔話を語っているっていうのに・・・まぁいいよ。そんであたしは特に真田を意識したことはなかったわけです」
「(涙を飲んで・・・)そうだな、そのような素振りを見たこともない。しかし今のはどうだ、面白いほどにデータが狂わされているぞ」
「なにそれ!!ちょ、そんな嫌味に笑って!」


柳は憎たらしくもにやけながらあたしの話を聞きながらデータを取っている。ほんっと、この参謀はおそろしいこと!まぁだから、柳に一からあたしのこと説明しても意味は無いけど。


「それはそうと、お前は俺にそんなことを話しに来たんじゃないだろう?」
「あったりー!さっすがの柳くん。音楽の教科書忘れたの、貸して?」
「そうだろうと思った。新学期になって初めて教科書を使う音楽の授業にお前は教科書を忘れてくる確率は82%だったからな」
「だって本田先生、急に教科書今度使うから持ってきてねーって言うんだもん!今まで歌ばっかり歌ってたのにさ」
「まぁ本田先生は気分によってその時の音楽の単元が違うようだからな、ほら」
「わぁいやなぎありがとー!返すの、部活前でいい?」
「ああ、そうだ今廊下に出ると・・・」



あたしはなにー?と言いながら廊下へと飛び出した。柳とは扉の近くで話していたのでそのままでも話を聞けると思ったからだ。すると廊下のすぐ向こうに真田がいて、ばっちりと目が合ってしまった。心臓の鼓動が早くなるのがすぐに分かる。っていうかそんなところじゃない。・・・や、やばい。今、あたしが持ってるものを見た真田が、形相を変えてこちらへと歩いてきた!



、その手にある教科書はなんだ?」
「あ、いや、ほらさ次音楽で柳にさ、用があって移動する前に来たんだ〜・・・」
「ほう、ではその教科書に書いてある『柳蓮二』という名前はなんだ?大方教科書を忘れて蓮二に借りに来たんだろう、忘れ物をするなど、たるんどる!」
「だから人の話は最後まで聞くべきだ、。弦一郎が体育から帰ってきて廊下ででくわす確率78%だ」
「あーあーはいはいもうお二方分かりましたよ!」
「はいは1回でいい!それにお前は日頃から忘れ物が多すぎる!もっと周囲に注意を払うよう努めんか!」
「もーそんなに怒ってばっかだと血圧あがっちゃうよー血圧メーターぶっ壊れちゃうよー弦一郎くん」
「な!大体忘れ物をするお前がそういう態度だから・・・」
「まぁ弦一郎、そう怒ってくれるな。が言うとおり血圧が上がるぞ」
「蓮二、を甘やかす気か?」



あたしは延々とこのまま真田の説教を受けて音楽に遅れる確率100%(比)だと思ったので矛先が柳に向いた途端あたしはくるりと踵を返した。



「じゃぁ柳これ、ありがとね!」
「待たんか、まだ話は終わっとらんぞ!」
「次授業遅れちゃうからまたね〜柳、真田」
「おい!」



サンキュー柳!後始末は君に任せた!そんな責任を無理矢理押し付けてあたしはひらひらと手を振りながら駆けて行くと背後から「廊下を走るな!」と再び怒声が聞こえた。あーあ、怒られるのはやんなっちゃうけど、顔がにやけるったらありゃしない。あたしにマゾヒストだなんて異常性欲があるだなんて信じたくもないけど!







<< TOP >>