11   Why me?

081212



「ヘイ、ジャッコー!」
「なんだ


は俺のことをあまりジャッカルと呼ばない。代わりの呼び名は『ジャッコー』だ。本人曰く『Jackal』と呼んでいるらしいが俺たち日本人(まぁブラジル人のハーフといえど)の耳にはの呼び方はどうしても『ジャッコー』に聞こえる。別に一向に構わないのだが、「ちりめんじゃこのじゃこっぽいッスよね」と この前赤也が評した時にはさすがになんとも言えなかった。しかしいまさらその呼び方をやめろともなんとも言えねーし・・・どうしたもんか・・・。それよりは大量のゴミ袋を抱えて、汗をかいてるくせにいやににこにこしている。まさかだとは思うが、仕方がない。


「ゴミ袋持ってほしいんだろ?」
「さすがジャッコーわかってるねぇ、もう重くて重くてなんの。休憩中にわざわざごめんね」
「いや、大丈夫だ」
「コート周りの落ち葉かきやってたらね、こんなになっちゃって。あと部室も掃除しておいたからその分のごみ」
「げっ、こんなに汚かったのかよ部室・・・」
「まぁそれなりにね、特にブン太のお菓子のごみとかね・・・」
「あー確かにな」


俺はが持っている5つのごみ袋のうち3つ抱えると軽い軽いと喜んでいた。そもそも女子が5つ持つのもどうかと思うがはだいぶこの1年半で鍛えられたらしく一気に運ぶことが多い。まぁそれで結構すっころんだりして真田に怒鳴られてるんだけどよ・・・。


「ジャッカルは文句言わずにもってくれるからねーだからついついジャッコーんところまで来ちゃうんだけど」
「まぁお前も一生懸命部のために働いてくれてるんだから俺たちもこれくらいしなきゃな」
「そうそう、ジャッコーはそう考えてくれるからいいのよ。赤也とかブン太はダメ、超嫌がるしせっちゃんは嫌味を一言言ってからじゃないと持ってくれないし仁王は手伝ってくれるけど必要なときにはいないし」
「あいつは基本ふらふらしてるからなぁ」
「柳はデータとるのに忙しそうだしさ、声かけづらいでしょ?柳生はもちろん持ってくれるんだけど・・・」


すると何を思ったのかはだんまりと黙ってしまった。少し頬を染めている。ああ、そうか。真田か。はあはは、と笑って誤魔化したがきっと真田のことを考えて照れたんだろうな。今まではそういうような素振りをあまり見せたこともなかったし、むしろ飄々としていただが5月から真田への想いを自覚した後たびたびこんな風に反応を見せたりもした。しかしこう一対一でこういう態度をとられると俺もどうすればいいか分からない。回りはみんなおちょくっているが俺は別にそういう気はないし、本人はきっと真剣に悩んでいることだろう。


「・・・は」
「うん?」
「真田のどこが好きなんだ?」
「え!」


するとほのかに染まっていたの頬は炎上したようにまっかっかになって、しかし自分を落ち着けるためかはふぅと深呼吸をした。がこんな風な反応するのも、今まで何度も見てきたがやはりいまだに新鮮だ。恋する女はキレイだというが、なんというか可愛いかもしれないな。一生懸命自分のことをこんな風に好いてくれたらやっぱり嬉しいしな。しかしあの真田、っていうところはちょっと気になる。見た目も、まぁ女子受けをする容姿でもないし性格は・・・まぁ俺にとっちゃあ怖い。怒るとすぐ手出すしな。だから俺は困ったように頬を染めているがなんとも不思議に思えた。


「うーん、最初は多分同じクラスだったから、寂しいっていうのもあったしよくわかんなかったんだけど・・・最近は自分にも他人にも厳しいけどやっぱり優しいところは優しいっていうか、なんだろ・・・でもテニスしてるとこも好きかも。か、かっこいいし・・・あとからかわれて真面目に受け止めてるとことか・・なんかかわいい」
「かわいい?」
「うん、すごくかわいい」


するとは何を思い出したのかクククと声を抑えて笑い出した。きっとその時の様子を思い出したんだろうがは案外笑い上戸なので笑い出すと止まらない。しかしあの真田のかわいいと称するとは、うーん、さすがはと思うよ。俺たち常人の感性には分かり得ないことを平気で言うっつーか。いや、これは男女の差だろうか。


「ご、ごめ・・ジャッカル・・あのときの合宿の真田思い出しちゃって・・・アッハハハ!」
「ああ、あれか。まああれは確かに面白かったな・・・」


俺もあのときの真田を思い出したら少し笑いが込み上げてきた。が笑うのも頷ける。あのときの真田はマジでおかしかった。ゴミを裏のゴミ捨て場に置くと俺たちはそれ以後も部内のことについてお互い愚痴を言い合ったり他愛もない話をしながら帰路を歩んでいた。は面倒見も良いし、人一倍部のことを気にかけてるので気苦労も多いせいかどちらかというと人の世話を焼かざるを得ないポジションにいる俺とは話が合う。俺が不満に思っていたりすることをも思っていたりするし、なんていうかそんな自分たちにご苦労様、と言ってやりたいくらいだ。


「あれ、休憩何分までだっけ・・・えーとあ、ジャッコー2分過ぎてるよ!」
「マジかよヤベー!また真田に・・・」
「俺がなんだ?」
「さ、真田・・・」


俺がおそるおそる後ろ振り返れば強面で待ち構えている真田がいた。それもなんだかすごく・・・不機嫌そうだ。眉間の皺がいつもより、深く刻まれているのは気のせいか。気のせいであってほしい!


「駄弁を労して練習開始時刻に遅刻するとはたるんどる!俺が探しにきたがいいものの、本当にお前たちは・・・」
「ごめん真田、ジャッカルにはごみ運ぶの手伝ってもらっただけで、ホント、怒るならあたしだけにして!」


は手を合わせてごめんなさい、と言うとさすがの真田もたじろいだ。ん?いや、ここで真田がたじろぐはずがない・・・そうか惚れた弱味ってやつか。真田もどこかおろおろと挙動不審になっている。・・・こんな真田を見るのも初めてだな。


「いや、俺もずっとくっちゃべってたんだし俺にも責任はあるだろ」
「確かにいくら手伝いをしていたとしてもそれが遅刻をしていいという理由にはならんな」
「わ、悪かったよ」


いくら言い方が先ほどよりは優しくなったとはいえ俺との扱いが大違いだな・・・しかし真田が2分遅れただけで探しにくるっつーのは初めてのことだが、まさかのまさか嫉妬ってやつか?げ、それだけは勘弁だぜ!


「フン、分かったならいいが・・・もあまり無駄に話している時間があるならマネージャーの仕事に専念してもらいたい」
「うん、ごめんね。反省してます。あと真田、新しい大会のスケジュール、ボードに書いておいたから真田後で確認しておいて。」
「ああ、分かった。それでは俺たちは練習に戻る。」
「はい、頑張ってね」


は先ほどの名残か少しだけ頬を染めていたが手を振りながら俺たちを快く見送ってくれた。まぁ見送ったといってもすぐ傍で仕事してるけどな。そういえばこの2人、すでに両想いなのか。本人達が気づいてないだけで。・・・つーかその後の試合形式での練習で真田とあたった際容赦なく叩きのめされたんだが俺悪くなくねーか?と楽しく話してた俺も俺かもしれないがなんでいつもこういう役目は俺に回ってくるんだ?なんで俺?どうして俺?!







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