回顧





いつしか近藤は夢を語った。江戸に出る、と。はそれに一緒になって目を輝かせた。子供のように、純粋に。流れ星に祈るそれに感情は似ている。過ぎ行く目にも止まらぬ願いに胸を焦がす。土方は己の大将にどこまでも着いてゆくという信念を持ってか、当然と着いて行くことにした。総悟もと同様、子供のようにはしゃいだがその裏ではミツバを思い真剣に武州と江戸を比べは溜息を着く。は自分も行きたいなぁと仄めかすように言うと鉄砲玉を喰らったように土方が目を丸くしたのには憤慨した。




「・・・・・・も来んのか?」


「まだちゃんと行くって決めてないけど、私も行きたいよ。」


「俺達ァ江戸に遊びに行くんじゃねぇぞ。」


「分かってるよ、そんなん!何、私が着いて行ったら不都合でもあるの、トシ?」




土方が渋ると、は答えを求めるように近藤に振り向く。しかし近藤もなぜか今だけは眉間に皺を寄せいつもの彼とは違う難しい顔をしていた。




「・・・・・・何で?私がいたら足手まとい?」


「だって、お前女だろィ」




お ん な。そうか、トシもいっちゃんもそれで苦い顔をしてたんだ。そうか、そうかと客観的に納得している自分の裏には怪訝に顔を歪めている自分がいる。


















お ん な だ か ら ?



















漠然としては口が利けもしない。今の今まで気にした事もなかった、おんな、ということ。そう考えるとふつふつと何か湧いてくるものがある。頭がぐらぐらする。わなわなと手も腕も震えた。めいいっぱい下唇も噛んだ。




「女?女だからいけないの?ねぇ、いっちゃんもトシもそう考えてるの?」




2人とも唸るように声を上げるともう居てもたってもいられなくなる。おんなの何がいけないのか。その時のには未熟で、世間知らずで箱入り娘なんかじゃない、今までビックリ箱に入っていた娘はそりゃぁ、もう。激怒を爆発させたものだ。




「もう・・・・・・いい!トシもいっちゃんもそーちゃんだって勝手にどこにでも行けば!!」




大声で喚いて怒鳴って。知らず知らずの内に道場から駆け出していた、子供のような自分。最近集まってきた門下生も私がとんでもなく険しい顔をして去っていくものだから目を丸くして驚いていた。武州の寂しい町並みを風のように切り抜いてゆく。叩きでもしたら崩れ落ちそうな橋でさえもバタバタと大きな音を立てて渡る。ぐるぐると考えが回る中で闇雲に駆けていたと思ったが違った。今、目の前にあったのは沖田家であった。





「あら、ちゃん?どうしたのそんなに急いで。」




夕日に隠れるように覗かせた顔はやはり、ミツバであった。ぜえぜえと息を切らすに何の疑いも抱かずに普段と何ら変わりない笑顔で迎える。がくん、と膝が折れる。




ちゃん!!」




ミツバが畳んでいた手拭いを放り出すと急いでへと駆け寄る。ふわり、とミツバの香りが鼻をくすぐった。懐かしい風に見舞われるかのようだ。するといつ知れずか生暖かいものが頬を伝うのをは感じた。




ちゃん・・・・・・?」




零れ落ちる感情にミツバは気付いてか心配そうにを窺う。それは止まることもなくぼろぼろと急ききるように溢れに溢れて。




「は、はは・・・ははは・・・・・」




奇妙に平然とした声では笑う。力抜けた腕はぶらんと無残にも吊り下げられた。背中を優しく宛がう腕も今は虚しく感じる。ふと、不謹慎にも懐に引っ掛かるものを思い出した。それはころんと、小さな牡丹の飾りを付けられたあの、簪。上等ではあるが、決して新調したものではない。生きる証となった、この        











戻ル 表題 進ム

080426