一刀





いつもと変わらぬ朝。違う部屋といえど、他の隊士たちに囲まれ夜を明かすのは毎度のこと。女の身でありながらそれが恐ろしいことや、恥ずかしいことなど何とも思っていない。日常、だからである。慣れとは実に恐ろしいものだなぁと悠長には寝起きの回らない頭で考えていた。鳥たちの小さな声が他の隊士達の朝を呼び覚ます。さぁ、常から成る日の始まりだ。

























「今日は沖田隊長が出ているので私、が師範代を一日務めます。皆さん言う事ちゃんと聞くよーに。」




えーやらわーやらなんやかんやと声が上がる。真選組の隊士たちはいつでも騒がずにはいられない。さんの稽古は沖田隊長に増してキツイ、との評判で有名だった辺り文句垂れてる連中が多いのだろう。内心いい気味だと思っているはどこか満悦とした表情を口の端に浮かべている。




「はい、一々騒がない!まずはいつもの素振り50本からの準備体操から、早素振り50本まで。一本でもズルした奴はプラス100本追加だ。始め!」





一、ニ、三、四と規則正しく号令をかける。局長と副長でさえそれの合図に合わせて竹刀を振っているのがとても不思議に思えた。本当は彼らが指揮を執ればいいのになぜ局長は私に任せたのだろう、かと。


防具を着けて、暫くの稽古の後地稽古となりも元に立つ。隣に副長も立っているようで次々と隊士たちが彼の列へと雪崩れ込んでいった。相変わらず副長は良かれ悪かれ人気があるなぁとは暢気にも思う。




「何ぼやぼやしてんだ、。お手合わせ願う。」


「局長!何で並んでるんですか、局長は元に立たなきゃダメでしょう。」


「たまに自分が並ぶ立場になってもいいだろうと思ってな、それより、一本お手合わせ願いたい。」


「・・・私からもお願いします。」




型にはまった蹲踞を成しえると隙を見せずにスッと立つ。局長は攻めの一線に剣先を置いている。局長らしいな、と口の端に笑みを浮かべると次の近藤のつま先が僅かに力を入れたのを目にした。




「だアアアアアア!!!」


「やああああああ!!!」




しばしの間パンパンと竹刀のぶつかり合いの音が響く。近藤さんの剣は攻に長けた剣筋だ。それを読んでかは次に襲い掛かる小手面の連続技に相手の竹刀の鍔元を狙ってなぎ払う。さすがに局長の握る力は強いせいか完全には剣先の進む先を変えることは出来ずにいたが次に来る面の流れを阻むことは出来た。素早く手首を回し再びその軌道を遮るように相手の力を上手く使い胴を切る。スパアアンと場内に威勢の良い音が響いた。同時におおおおと後ろで並んでいる隊士たちも声を上げる。振り返った先には局長の困ったようなそれでいて嬉しそうな笑顔が面金から覗いた。




「やっぱには叶わないな!」




めいめいと笑う局長につられても照れ臭そうに笑む。ぞろぞろとの後ろに並ぶ隊士たちは増えて、隣の副長以上の列を連なせていた。終わりの蹲踞を告げると次にまた一人、目の前に来る。お願いします、と声かける二人目、三人目、と打ち込んでゆく。さて、今日は何人抜きと行こうか。












地稽古を終えると軽く係り稽古を終え、クールダウンに切り返しを行って休憩へと入った。実に2時間という朝稽古だが流石に体も慣らせた頃だろう。今日も一日市中見廻りを終え昼飯を頂き、書類の処理。そして夕方の稽古に顔を出し夕餉を頂き残業、そして十一時頃の風呂。寝る。そんないつもの繰り返し。前線で戦ってきた頃と違い最近は平和だ。たまに大きな事件も起こることはあるがそれも幾年前よりも頻繁でもない。だからそんな一日だと思っていた。ただ、普通に公務を歴然とこなす、そんな日だと思ってこの一刀を変らぬ一日に振りかざしたのだった。











戻ル 表題 進ム

080413