寂寥





静かだった。閑散とした日々が余計にそれを際立たせて、いつでも心に寂寞としたものを抱えている気がした。あれから大きな事件もなく、真選組は通常通り己に与えられた仕事をこなす毎日。なにも、変わらない。ただ、さみしさなんてものは人はいつしか忘れるものらしく誰もが日常に馴染んでいった。前にも後ろにも進めない人間は果たして私のような人間だけなのだろうか。わからない。ただ、私は自分に課せられた任務を全うするだけ       そう信じないと、なにもかもが崩れる気がしてならなくて、怖いんだ。




「なぁに眉間に皺寄せてんでィ」


「そーちゃん」


「まぁが考えてることなんだから、どうせくだらないことなんだろィ?」


「失礼だな、そんなくだらないことなんかじゃ・・・」




しかし、そう言われてみればくだらないことかも。いつだって揚揚なそーちゃんに言われてみると、なんだか自分が考えていることがばからしく思えた。けれど途端にそんなくだらない悩みでうんうんと唸っている自分が情けなく思えた。一番辛い立場に今あるのは、副長なのに        と。あの人はいつだってどんな立場にあったってああなのだ。表情ひとつ崩さず、酷薄に自分の職務をこなす。それは隊士たちの憧れでもあり恐怖でもあった。そんな態度をとってるあの人だけど、




「ちゃあんと分かってますよ、私は」




その凛々しい横顔は、私に隠せるものなどないから。寂しさを比べるなんてできないことだ。私の感じるものと副長が感じるものは違うけど、決して解り合えないものではないと、私は知っているから       




「なぁに言ってんでィ、


「ひみつ。」




副長は自室にいるだろうか。きっといるだろう。香ばしいお茶っ葉が入った急須にお湯を注いで湯呑と、松平のとっつぁんから頂いたお菓子を添えて盆に載せればそれだけで平和な日常が窺える。ゆっくりと副長の部屋へと赴けばそーちゃんが怪訝そうな顔をして私の後へ着いて行く。そんなことを思ってか盆に乗る湯呑はみっつ。がらりと襖を開けるとそこには刀の手入れをするあの人の姿。




「なんだ、・・・と総悟か」


「お茶が入りましたよ。一緒にお茶しません?」




総悟も、と付け加えると、「ええー」となにやら不満そうな声を漏らしたがそれは彼の天の邪鬼のこと、照れ隠しなのも私にはお見通し。




「たまにはいいじゃない、そーちゃん。副長も」


「まぁ別にかまわねぇが・・・総悟が余計だがな」


「俺だってアンタと飲み合わせる茶ァなんて」


「総悟」




ぴしゃりと私が言うと、総悟はバツが悪そうな顔をして大人しく畳へと腰かけた。お茶を注げば、こぽこぽと耳触りの良い和やかな音と香りが室内を包む。副長は手入れしていた刀を鞘に納めておくと、くるりと体をこちらへと向けて、相変わらずの表情で湯呑へと手をかける。かけてあげたい言葉は幾つもあるけど、あなたには私の言葉なんて気休めにもならない事だって知っているから。




「上等な菓子じゃねぇか」




そう言ってほんの少し、口角を上げれば私も湯呑に手をかけ、お茶を啜る。しばらくすれば、いっちゃんも顔を出して私にお茶を淹れるよう頼みにくる。そして庭でバドミントンの練習に励む退くんを見て笑い声をあげて副長の怒声が響くのだ。今は、これでいいのかな。




刀を振りかざして追いかけまわす副長の背中を見て、未だに言えないその名を噛みしめて、このもやもやとする気持ちを心の奥に仕舞い込み、亡き友の笑う顔を思い浮かべて微かに笑んだ。




戻ル 表題 進ム

090325