違和





隊士どもが新聞の周りに集まって妙に騒ぎ立てるもんだから、俺はどうしたんだと一声かけてやった。俺の声に振り向いた隊士どもは顔を強張らせて間抜けにも口をあんぐり開けていたが、肝の据わった隊士の一人が副長、コレ!!と半ば叫びながら新聞の一面を指差す。俺は銜えていた煙草の存在を忘れるかのように、畳にじんわりと残りの灰を焼き付けた。



















「おい!!」


「おお、はるばる京までご苦労だったな、トシ。」


「なんでアンタはそんな暢気なんだ・・・・・・」





土方は用心深くぴしゃりと襖を閉めると、その疲れを表すようにどっかりと重力の赴くまま腰をついた。相変わらずの自分の上司の暢気振りにも呆れる。




「なんだあれは・・・は万斉と斬り合ったってか?」


「なんだ、京にまで知れ渡ってたのか?」


「なんだ、って近藤さん・・・・・・それよりもアイツが女だってこと」


「別に問題はないだろう」


「はぁ・・・近藤さん、アンタは全くのんきすぎる」




溜息とともに吐き出された煙は部屋を覆った。しかし俺は内心安堵の念をどこかで抱いていた。何かの呪縛から解き放たれるようにそれはすっかりとなくなっていた。大丈夫だろう、と豪語して笑う近藤さんを見て俺もようやく地に足が着く。そうか、        ・・・・・・よかった。口にするまでもなく俺の気持ちに気がついたのか近藤さんはそろそろ早朝会議が始まるぞ、とこれ以上話していてもただ俺の意地だけが張った会話に終止符を打った。








「えーみんな知ってるヤツらも多いと思うが今日は重大な発表がある。みんな心して聞けー」




ざわつく隊士を見れば彼らがその重大発表が何か分かっているはずだ。近藤さんが目で合図すると総悟の隣に腰を下ろしていたはゆっくりと立ち上がった。その瞬間、隊士が次々と口を噤む。久しぶりに見た彼女の顔は以前よりも晴れ晴れとしているのか       それともこの状況下で気持ちが強張っているのか。いずれも全く表情を崩さないに俺は彼女がこの状況をどう受け止めているのか頭の中で翻弄されていた。しかし俺は武装警察真選組の副長だ。翻弄されようとも近藤さんの代わりに頭の中で用意されたシナリオを武装警察真選組の副長として、俺は口にする。




「一番隊隊長補佐官のは俺が武州時代からの馴染みだ。言っておくが俺や近藤さん、は決してテメーらを騙そうとしたりだなんて思っちゃァいねェ。は女だ。が、例えコイツが女であろうと今までと何も変わらない。引き続きには一番隊隊長補佐官でいてもらう。。」




何か一言と、名前を呼べばあいつはそれを察知する。隊士らの前に立つは、以前見えてなかったはっきりとした光が、その瞳に宿っていた。




「皆さん、ごめんなさい。わたしが言いたいのはそれだけです。わたし一人のためにこんな騒ぎを大きくして・・・真選組をやめるべきだとは分かっているんです。」




それは困る、と隊士らの声が上がるとは驚いたようではっと息を呑んだが、すぐに頬をほんのりと赤く染めて口角を微妙に吊り上げた。の様子にもっと驚かされた隊士らがどよめく。ありがとうございます、とぽつりとは呟く。はもう笑ってはいなかった。









興味深深な隊士らは以前あれだけの雰囲気を纏っていたの今の様子を見てか、難なく話しかけていた。遠目からでもが嬉しそうに、でも困ったような顔をして受け答えしているのが分かる。俺のいた間に何があったのか分からないが、これでよかったのだろう。幕府からは前々から知れていたことでも風当たりは強い。けれどが久しぶりに笑っているのも見れば、そんなことも吹っ飛ぶとも思えた。




「いっちゃん!!」




近藤さんが向かってくるのも同時には叫ぶ。その変化に俺は驚いた。昔の呼び名を口にするはきらめいている。隊士らと談笑しているのか、近藤さんもも終始にこにこと笑顔を絶やさない。息を吸い込んだ。銜えていた煙草から徐々に煙が体を侵食しているのが分かる。あの頃の向日葵のように、笑うはどこまでも輝いている。それはやはり、アイツに似ていた。ひんやりと頬を撫でる風は、今の俺には優しすぎた。




。」




知らず知らずのうちに口が動いた。目の前にいた旧友はそれに振り返った。けれど俺はそんな言葉を期待してたんじゃない。あの頃の、アイツと笑い合っていたときのように、俺の名を       




「・・・・・・副長。」




呼んでくれると思った俺は浅はかなのか。風向きは変わった。風力は2。










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080628