あれから練習は中止。当たり前だ、怪我人が出たんだから。彼女の友達が医務室に出入りするなか俺はぽつんと白い部屋の入り口に立っている。別に彼氏でも友達でも俺はなんでもない。逆に俺はさんに激しい好意というものに迷惑をかけられているんだ。でも、なぜだか心の蟠りは拭えない。自分が自分でよく分からなくてムシャクシャする。だんだん、と地団太するとマダム・ポムフリーが飛んできて唾を飛ばすほどの勢いで怒鳴るだろうから、手のひらに爪がが食い込むほど拳を握り締める。あのブラッジャーが取れなかったことに対して悔しさを噛締めているんだ。でもなんで事故を未然に防げなかった?それがさんでならなくちゃならなかった?分からない。得たいの知れない感情が頭を堂々巡りに回ってる。ヤツは真っ先にさんところへ飛んでいった。彼女の友達が出入りするなかもきっと、ずぅっと看病している。そう、俺はヤツを待っているのだ。そう、自己暗示をかける。ひそひそとさんを労わる言葉を囁く子たちに話しかけたい衝動にかられる。なぜだ?分からない。分からない、震えてるこの訳。




「シリウス!何してんだ、早く入ってきなよ!!」
「は?俺はお前待ってんだ、」
「何言ってんの?お前それ本気だったら」




ヤツは俺を軽蔑するような目線で訴え、顎で行き先を指した。そんなヤツの様子に余計腹立って、不意に入ったすぐ目の前のベッドの足をガンッと蹴る。当然、マダムは俺を仁王のごとく睨む。そんな咎めも鼻息一つで片付けてしまうと、その隣のベッドのカーテンが閉められていることに気付いた。さんだ。急に胸が締め付けられる。別に俺は悪いことしてないじゃないか、気にするなよ。そう言い聞かせ落ち着かせる。何を俺はキョドってるんだ。全く。シャーとカーテンを出来るだけ静かに開ける。一応怪我人なわけだし。さんは右腕を包帯でグルグル巻きにされていた。そのあまりの太い腕に俺はそれに目を奪われてしまったわけで、肝心のさんの顔なんて二の次だった。そんなわけで、俺は彼女の衝撃の一言に耳からガン、と殴りつけられたような気をさせられた。




「シ、シリウス・ブラック・・・・・・」
「見、見舞いに来たんだけど・・・・・・」
「な、なんで、ブラックくんがあたしのお見舞いに・・・」
「(ブラックくん?)だって、俺がさんの腕に・・・・・・」
「と、とにかく、ごめ、あ、ありがと!それじゃ!!」




俺はさんに追い出されるようにカーテンを閉められた。俺は顔面からカーテンを浴びたわけでブッとその妙な感触に柄にもなく噴出す。意味が分からない。ブラックくん?なんで今更あんなにビクビクしてんだ?つーかさん、俺のことあんなに拒否するの、なんかおかしくね?ぐるぐる渦巻く混乱に俺は咄嗟に踵を返して勢いよくカーテンを開けてしまっていた。さんはメガネザルのように目を真ん丸くさせて頬が活火山のようにカァッと赤くなった。何を、今更。怪我してどこか軸がずれたか?




「大体、ブ、ブラックとあたし喋ったこともないのに、な、な、なんで、お見舞いなんか」




段々と声を小さくするさんを俺は豆鉄砲食らった顔で見ている、と思う。話したこともない?ふざけんな。なんで見舞いに来たか?ほざけ。俺 が 一 体 何 し た ん だ。




「はぁ?その怪我はァ、俺のせいであって、さんは先ほど思いっきり腕をブラッジャーに打ったんだろ?」
「し、しらな・・・!あ、あ、あたし、気がついたらここに・・・・・・」




はぁ?とますます声を荒げる俺に、マダム・ポムフリーは業を煮やしたのか俺は一気につまみ出された。未だに状況がなんにもつかめない。とりあえず鼻歌をのんきに歌っているヤツが何か知っている。それだけは分かった。あの眼鏡に隠された隠蔽は今までに何度あったことか。まさか仲間まで騙そうとするだなんて。




「くおら、ジェームズ!陰険眼鏡!腐れヘタレ野郎!!」
「誰が陰険眼鏡だ。誰が腐れヘタレ野郎だ。誰がエヴァンズストーカーだ。」
「誰もそこまでは言っちゃいねぇ・・・つーかそんなこと関係ないんだよ、お前さんのこと何か知ってるんだろ、吐け!!」
「やだなぁ、怪我させたのは君のプレーが気が抜けていたからじゃないか」
「そーいうこと言ってんじゃねぇんだよ、マジでキレるぞ!!」
「分かった、分かった。吐く吐く。じゃ、シリウス吐くいっちょにトイレ行こうか」
「お前この期に及んで白を切る気か・・・・・・・!」
「分かった、真面目に話す。その前にちょっと落ち着いてくれよ、話すこっちだって躍起になっちゃうじゃんか」




シリウスははーはーと肩で息をする。やれやれ、と言った顔で俺を見ているヤツが余計にムカつく。しかしここでまた再び怒鳴ってしまえばコイツは俺をおちょくるだろう。それだけはなんとか避けたいのであくまで冷静でいるフリをした。フリだフリ。




「いいかい?にはねぇ・・・・・・」





























「あの惚れ薬、意図的にに飲ませたんだ。」




次の瞬間、ヤツは俺の拳を受けて華麗に宙に舞っていた。