「ねーシリウスくんは選択教科なに?」

「・・・・・・ルーン文字」

「あっねえねえトーストいる?」

「いらない」

「じゃぁハムエッグ?ソーセージ?スクランブルエッグ?」

「・・・・・・自分で取る」

「あ、はいミルク!」

「俺コーヒーだから」

「プディングいる?朝のは格別だよ!」

「いや、甘いもの嫌いだから」

「ねぇシリウスくん」

「ああ?」


いかにも不機嫌です、という素振りを見せているのにこの女はどうして動じようとしない?その上にこにことラズベリーの香りのするリップが塗られた唇が上に上にと向いている。全く頬の筋力がどんなに鍛えられているのかが知りたい。そして、一番俺を苛立たせているのはさんのその隣。そう、ヤツだ。めがねをぎらぎら光らせて、口元は今にも天へと上っていきそうな勢いだ。その面がいっちばん俺の腸を煮えくりかえそうとしている。言っておくが俺は気が短い。しかし、それで何かと損をしているとは思いたくない。(こんなことを言っているとジェームズやリーマスに呆れられる)しかし今はそれよりさんだ。今、この女は何て口にした?


「は?」

「えーっと、だから・・・次の授業一緒していい?」


えーと何と言えばいいんだろうか。とりあえず黙ったままでいよう、そうしよう。しかしその俺の決心は次の瞬間ヤツの心ない一言で崩れ去った。


「勿論いいよね?シリウス」


よくねーよ、何て言えるモンなら言ってやりたい。にやにやと気味の悪い笑みを浮かべるヤツの隣でさんは本当?と期待を抱きながら目をきらきらと輝かせて尋ねている。溜息がまたひとつ、口内から抜けていくのを感じる。こんな言葉で人を形容するのは(ジェームズは例外として)失礼だと思うが、正直うざったい。それもかなり、うざったい。今の俺はさんが惚れ薬を飲んだという事実で自制出来ているようなものだ。仕方なく、その場を凌ごうと席を立つと昨日と同様に、さんとヤツが続いて席を立つ。


「勝手にしろ」


そう一言言い放つと、ヤツは何やらさんに良かったねだなんぞ囁いている。良くなんぞねーっての。



















とりあえず今日の授業、いや今日一日自体が最悪だった。恐怖の大魔王が天から召されてくるよりも最悪だった。今まで六年間この城で過ごしてきたがその中で一番屈辱を味わったに違いない。変身術では隣でさんざんを失敗し、俺が羽ペンを束を白鳥に変える事に成功したのにさんの失敗呪文が俺の白鳥にも影響して白鳥の右半身がどぶ色になってしまった。お蔭でグリフィンドールは減点、俺の白鳥の評価もよろしくないものになってしまった。そして次は魔法薬学。幸いヤツが俺のペアで普段通り楽しみながら段取りをきちんと踏んで(勿論悪戯用の鍋もひとつ用意して)調合していたのにさんの肘が誤ってニガヨモギとかそこら辺の薬草を一緒くたにひっくり返したせいで、俺たちの薬はすぐに台無しになってしまった。それだけならまだマシな方だがそれだけじゃぁないんだ。急に鍋はぼこぼこと不気味な音を立て、泡を吹き、綺麗に澄んだ透明な色だった薬も(これは真面目に調合したもう一方)グロテスクな黄土色と深緑色が合わさった色に変わってヤツと2人で鍋を覗き込もうと思った瞬間ジューッと音がして、お次にはそのグロテスクな液体が噴水のように湧き上がった。勿論クラス中そのグロテスクな液体のシャワーを浴びたわけで、でも俺とリーマスとジェームズのヤツは間一髪机の下に逃げ延びた・・・・・・と思ったら、この騒ぎを起こした張本人のさんが俺の逃げたテーブルの下にいたのだ。この時俺はさんがただ者ではないと、みなしたのだった。えへへだなんてのんきにふやけた笑いをしたさんが今以上に近寄りがたい人に見えた。そして次の時間は・・・・・・と説明していると多分夜も明けてしまうのでここら辺にしておこうと思うがもう、俺は食欲すらない。夕飯のメニューが気になることもないし、目の前に大好きなチキンを出されても今日は腿肉一本しか喉を通らないだろう。


「んー?どーぉしたのシリウス?あ、もしかして恋煩いかな?」

「ジェームズふざけんじゃねぇっ!!」


するとヤツはそんなに怒らなくたっていいじゃんとかなんとかほざいてやがる。今は何故だがさんがいない。そういえば、何でだろうと辺りを見渡すと、ほぉグリフィンドールの才女と呼ばれているエヴァンズと一緒に食事をしている。そうかそうか、あんな女に友達もいたんだなと失礼なことを堂々と俺は思っているわけだが反面、俺はとても安心している。これで今日の夕飯はのんびりと過ごせると段々食欲も湧いてきた。二本目のチキンに手を伸ばそうとしたがその手は次の瞬間に手を納めることとなった。それもこれも全てこのキンキンと俺の頭の中で響く声のせい        


「シリウスくん、はいチキン!!」



















俺はこの一週間さんという呪縛から逃れられないのだろうか。