あの子はなんだっていうんだ。全く自分勝手な女だ。この世のあんな訳の解らん人間がいようとも思わなかった俺は今、非常に面食らった阿呆面をかましているんだと思う。普段はこんな失態を大衆に晒す俺でははないが、今はそんなこと気にしている余裕がないほど、呆気に取られている。何でかって?何でかってそりゃさんとの会話は奇妙な極まりないものだったからだ。


「何か用?」
「あ、あのね・・・」


さんは先程のように手をもじもじと動かしている。俺は苛つく足元の貧乏ゆすりを抑えるのに意識が完全に会話からそっちのけであった。


「さっき、言ったことだけど!すぐに・・・すぐには返事、いらないから!」
「・・・・・・はぁ?」


何を言うんだ、この女は。大体俺は返事する気なんてさらさらないし、その前に待つなんて一言も言ってはいない。怪訝な表情をしてみせたが、さんは態度を全く変えようとせず顔を赤らめ、照れた様子を見せている。世間の目から見ればなんて可愛らしくていじらしい女の子だろうとでも思うか。


「だから、あたし、頑張るね!それじゃっ!」
「え、あっおい!!」


そう言ってさんは長い髪を揺らして駆け足で去って行ってしまった。虚しくも半歩出された左足と差し出された左手は空を出るだけだった。げんなりとした気分を抱えて寮へと戻り、今に至る。が、今まさしく俺の足は苛立ちから抑えられていない。なぜなら、俺のしんゆうだったはずのヤツがもの凄くムカつく面で構えているからだ。


「何て言ってた?ねぇ何て言ってた?」
「・・・・・・おまえ、絶対面白がってるだろ」
「やぁだなぁ、シリウス!僕が君のことを面白がるはずがないじゃないか!」
「こんの・・・!」


ふつふつと湧いてくる怒りに任せて拳を握るが、しかし今この苛立ちをコイツにぶちまけても俺のヒットポイントが限界にまでに削られるだけだと思い、固く握られた拳を解く。


「あ、怒らないの?」


それを自分のベッドから横目で様子を眺めていたリーマスが面白がって声をかける。力なく振り向くと更にリーマスは驚いたような顔をした。


「呆れて怒る気失せた・・・・・・」
「あぁ、じゃぁつまりジェームズのこと見捨てたってことかな?」
「ええええ!シリウス馬鹿にしてごめん、弄るの面白がってごめんだから見捨てないでよオオ!!」
「お前、俺のこと馬鹿にしてたのか、弄るの面白がってたのか・・・!」


大きく溜息を吐くと、俺はもう何もする気もなくただただベッドに項垂れる。ばさりと乱雑にかけたシーツはぐちゃぐちゃだがそんなことを気にするほど今の自分に余裕はない。疲れた体をベッドに預けると、すぐに夢の世界へと誘われる。安らげる時がやっと来た、とそう安心していた、はずだったんだが。








「ねーシリウスくんは選択教科なに?」
「・・・・・・ルーン文字」
「あっねぇねぇトーストいる?」
「いらない」
「じゃぁハムエッグ?ソーセージ?スクランブルエッグ?」
「・・・・・・自分で取る」
「あ、はいミルク!」
「俺、コーヒーだから」
「プディングいる?朝のは格別だよ!」
「いや、甘いもの嫌いだから」
「ねぇシリウスくんシリウスくんねぇシリウスくん・・・・・・・」



















「うわーっ!!」




ちゅん、ちゅんと鳴く小鳥の声が聞こえた。窓辺を見ると陽射しが差している。机上にある置時計に目を移すと、もう8時間近。気がつくと来ている寝間着は汗びっしょりに濡れている。



「やっべ、遅刻遅刻!!」



ハンガーにかけてあるシャツを掴み、急いでネクタイを肩にかける。出際に鏡を覗き込み、寝癖を適度に整えるとそのまま慌ただしく階段を降りていく。大広間へと着くと、ジェームズ達が手招きしながらこちらを見ている。安堵の息を漏らし、そちらへと向かおうとした、その時        






























「し、シリウスくん、おはよう!」


目の前にははにかむさんの姿。その時までこれが悪夢の続きだとは、かけらも思いはしなかった。