わたしはシリウス・ブラックに恋破れた次の日から、いわゆる自分磨きというものに取り組む事に決めた。まず、この見た目をどうにかすること。そして自信の無さや他人を羨む癖を直すこと。誰もがいい女と認めるようになること!わたしはの言ういい女の条件を寝る前に聞き出し、は眠たげな声でしぶしぶわたしに付き合ってくれた。それでこそわたしの親友。まずはわたしは日本の実家の母親に頼んで最近の女性向けファッション雑誌と美容系の雑誌を買い求めてもらった。勿論自分の貯金から出すという条件つきで。母は何でわたしが急にこんなオシャレ、というものに目覚めたのか不可解で「恋でもしたの?」という手紙と共に数十冊の雑誌をまとめて送ってきてくれた。ふくろう便で送られてきた大量の雑誌はふくろうがもうヘトヘトになって日本から来たので机に落とされた時ちょっとしたハプニングになった。それは普通の荷物のドサッではなくてバーン!!という凄まじい音で、しかも周りの朝ごはんが吹っ飛んでしまったので、わたしは周りのグリフィンドール生に平謝りするハメになってしまった。な、なんだか前途多難だけれど大丈夫かしら。それを遠くで見ているシリウス・ブラックを見た。さも寝起きで、興味も無さそうにあくびをしていた。フンッ、あんたなんて絶対見返してやるんだから!恋と憎しみのパワーが入り混じったわたしはせっせと朝ごはんを食べ、すぐに雑誌を寮に置きにテーブルを立った。

「あら、今度は何してるの?」
「小顔マッサージ……。あとこれ終わったら眉毛を整えてパックして、脚痩せストレッチするの」
「美容面では大丈夫そうね」
「うん、がんばる……」

もたまにわたしに付き合ってストレッチを一緒にやってくれたり、外でのジョギングに付き合ってくれた。他のルームメイトはわたしの急な美容体操やら化粧やらに驚いて、「一体何があなたを変えたの?」と聞いてきた。そりゃあ、全然身なりにあまり手を入れてなかったわたしが小顔マッサージなんかやり始めたんだから皆にはマーリンの髭!でしょうよ。しかも全部マグル式で。それにしても女の子っていつもこんな大変な事をしてるの?わたしは最初こそ、雑誌達に載っている美容のための魔法を胡散臭く思っていたけれど、三ヶ月続けた今では自分の肌がみるみるうちにキレイになっていってるのが分かる。前よりもハリがあるし、透き通るような肌になっている。そりゃあ、黄色人種だから肌の白さでは白色人種には勝てないけれど……。

、最近キレイになったわよね」
「本当、あのボサボサ頭のはどこへ行っちゃったのかしら。別人のようよ。知ってる?フィリップがにお熱だってこと」

ヒソヒソとたまに聞こえるわたしの噂は急激に広まっていった。半年が過ぎる頃にはわたしも自分自身変わったという事を確信できていた。勿論美人も美人、高嶺の花のようなリリー・エバンズのようなとびっきりの美女にはなれないけれど。少しは見れた容姿になれたんじゃないかしら。わたしは丁寧に睫毛を杖を使ってカールする。そして早寝早起きの習慣も身についた。体調や肌を美しく保つにはお肌のゴールデンタイムという時間帯に睡眠を取らなければならない。けれど美容にあまり時間を費やすあまり、宿題やらレポートやらが疎かになっていた。わたしの苦手科目にはAがつくことは少なくなり、マクゴナガル先生に呼び出しをくらい「色気づくよりももっと大事な事があるんじゃありませんか、?」と厳しいお言葉を頂いてしまった。うーん、これは痛い。わたしは遂にトロールのTがついてしまった魔法薬学のレポートとにらめっこしながらトボトボと歩いているとドン、と人にぶつかってしまった。ぶつかった拍子にわたしの恥ずかしいレポートがはらりと手から滑り落ちてしまい、わたしは少しよろめいてしまった。

「ごめんなさい、前を見ていなくて……」

わたしは体勢を整えながらぶつかってしまった相手に振り返るとそれはわたしのミューズ、リリー・エバンズであった。しかし喜びも束の間、リリー・エバンズの手元にあるものに心臓が口から飛び出そうな程わたしは驚いた。わたしのひどい成績を見たリリー・エバンズは失笑している。

「……これ、貴方の?」
「え、ええ」
「……オシャレよりももっとお勉強を頑張った方がいいみたいね、

ガーン。それはわたしの頭に重い石がズガンと落ちてきたような気分だった。あの、あの素敵なリリー・エバンズに……笑われてしまった。わたしの目にはみるみるうちに涙が溜まり、その場から逃げ出してしまった。一目散に寮に逃げ込み、ベッドへとダイブする。リリー・エバンズはそりゃあ頭も良いし、元が美人だし、人気もあるし、いいでしょうよ。わたしなんて、わたしなんて……!ここまで努力してやっと皆に認めてもらえる容姿になったのに……。勉強まで手が回んないわよ!!わたしは八つ当たり気味に自分の魔法薬学のレポートをグシャグシャに丸め、放り投げる。するとが心配そうな顔をして部屋へ入ってきた。

「泣いてる貴方を見かけたと思ったら、どうしたの?」
「…………リリー・エバンズに馬鹿にされたの」
「どうして?まさかが変な事したとか?」
「……魔法薬学のレポートを見られたの。マクゴナガルには怒られるし、もう最悪」

やれやれ、という仕草をしてはベッドの上で膝を抱えて座るわたしの隣に腰掛けた。

、貴方は綺麗になったわ。それは努力の賜物よ。けれど外見だけ磨いてもダメよ」
「……だって」
「だって、じゃないわ。あなた来年はO.W.L.試験だってあるのよ?そのままの成績でどうするの。いい女は成績なんかに振り回されたりしないわよ」
「……いいなあ、エバンズは。元々が頭良いし、美人だし。わたしには到底ムリよ」

ぐすぐすと鼻を鳴らすわたしに、は優しい眼差しを向けた。

は綺麗になったわ。けれどそれは見た目だけ。勿論その努力はすごい事よ?けれどまた羨ましがる癖が出ててはダメよ。自分こそがいい女なんだ!って自信が持てるくらいにならなきゃ。ハートが大事だって言ったでしょう?」
「…………」

わたしが俯き黙っているとは腰を上げた。

「いいわ、今は一人で頭を冷やしなさい。きっと、わたしの言ってる事が分かるはずよ」

そう言って足早に部屋を出て行ってしまった。わたしは一人になるとまた先程のリリー・エバンズの表情を思い出して目を潤ませる。ワンワン、と声を上げて泣くうちに泣き疲れ、わたしは健やかな眠りについてしまった。がそっとわたしに毛布をかけてくれた事を知るのは目が覚めた時だった。




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