その運命の時は思いもがけない瞬間に来た。その日は授業もなくホグズミードへ皆が赴く機会でもなく各々がゆったりとした週末の午後を楽しんでいた。わたしもその内の一人で、が所用を済ませている間、わたしはお気に入りの樫の木の幹の下で本を読んでいた。日本から持ってきた、マグルの童話なんだけれど小さい時からのお気に入り。がいつも温かい紅茶をマグカップに淹れてくれるから、いつもそれを飲みながら童話を読む。そんな幸せな午後の昼下がり。ふと視線を本から逸らすと、遠くの木陰でカップルがイチャついているのが見えた。わたしは深くため息をつく。今青春を謳歌してるカップルなんてこの世に何千何万といるんだろう?わたしはいつになったら彼氏ができるのだろう。でもあの人以外の人は考えられないし、けれどわたしみたいな人間が彼と一緒になれるわけがないし。きっとこの淡い恋は淡いままでいいのだ。きっと燃え上がる事は一生ないだろう。くすぶり続ける小さな恋の火もきっといつかは消える。シリウス・ブラックは美人さんとゴールインして、その美人さんはきっとキレイなウェデイングドレスを着て皆に盛大に祝福されるんだろうな。

そんな事をぼーっと考えながらカップルを見つめていると近くから少し掠れたハスキーボイスが聞こえてきた。この声は、シリウス・ブラック!わたしは声のする方へぐるんっと体を向ける。するとわたしの座っている木の幹の裏にシリウス・ブラックはいた。ま、まさかこんな至近距離でシリウス・ブラックが見れるなんて!わたしはそーっと顔を太い木の幹から出すと小柄で可愛らしい女の子の後ろ姿が見えた。

「あの……わたしずっとあなたの事が好きで……その……良かったら付き合って下さい!」
「あーわりいな。俺お前好みじゃねえんだ」
「え……」
「だから、付き合えないって言ってんだ」
「そ、そうですか……じゃ、じゃあ」

それはまさに告白現場というものだった。わたしはドキドキしながらものすごい集中力で見ていたので、その女の子が急に振り返ってキレイな涙を流しながらわたしの方へ猛突進してきたのにとても驚いた。「ぎゃっ」とわたしは色気のない声を上げてその子が去っていくのを見ると、わたしから対角線上にいるシリウス・ブラックと目が合ってしまった。こ、こんなところで目が合ってしまうなんて……もう、わたしったら幸せもの!!じゃなくて、シリウス・ブラックがこっちに近づいてきている!!!!

「おい」
「は、はいいいぃっ」

わたしの心臓は早鐘を打っていた。あのシリウス・ブラックにわたしが、話しかけらている!!

「お前ももしかして告白順番待ちとか?」
「……へ?」
「俺は大体お前みたいな暗そうで常に人の事ばっか羨ましそうに見てるヤツ嫌いなんだよ。……あーっくそっ!今日は何でこうも趣味でもねえ女に言い寄られるかなあ」
「……は?」
「つーことだから。じゃあな」

わたしが口をあんぐりと開けて唖然としている内にシリウス・ブラックはそう捲し立てて去っていってしまった。……えーっと、これはわたしフラれたってこと?まだ告白もしていないのに?一方的に終わらせられた淡い片想いにわたしは一過性のショックを受けたようでその事実を受け入れられずしばらく放心状態だった。その場でわたしは硬直しているとが用を済ませたのか、固まっているわたしを激しく揺さぶる。

「ちょっと、どうしちゃったのよ?あなたの大好きなミルクティー淹れてきてあげたのにっ」
「……
「何かあったの?」
「いま……いま、シリウス・ブラックが」
「もうっまたシリウス・ブラックなの?今度は何?」

わたしは先程起こった事を事細かにゆっくりと説明していった。するとはふんふんと頷いて妙に感心したようだった。なんで?わたしがフラれたっていうのに感心?

、わたし好きとも何も言ってないのよ?酷くないかしら?」

涙がジンワリと湧いてきて、わたしは涙目になった。声が震える。するとは何か考えこむように黙りこみ、しばらくしてから言葉を発した。

、厳しい事を言うようだけどシリウスはあながち間違っちゃいないわ。というか見透かされたのねあなたの事。なかなか賢いじゃない」
「……」
「一方的に傷つけるように女の子を振るような男はひどいって思うかもしれないけど、ハッキリ断る事ほどの優しさはないわ」
「……ひどい、ひどいわよ!!わたし、彼に何も言ってないのに!!」
「そうやって誰かのせいにしてれば楽よ。それにシリウス・ブラックは図星を突いているわ。誰かを羨ましいとばっかり思っているを」
「……うう」

の言葉は凍てつくつららのようにわたしの心にぐさりと刺さる。

「図星を突かれた人間は大抵理不尽に怒るものよ。でもその怒りに流されてしまってはダメ。、あなたはまだシリウス・ブラックの事好きなの?」
「…………うん」
わたしはぐすぐすと鼻を鳴らし、から差し出されたハンカチを受け取り鼻をかむ。は厳しい事を言ってても優しい。そしてわたしはシリウス・ブラックにあんなひどい事を言われてもまだ好きなのだ。4年間も貫き通した憧れはやすやすとはわたしの恋心を枯らさせる事はできない。

「ならあなたがやるべき事はもう分かってるわよね?あなたには可能性があるの、わたしはいつもそう感じてたわ。でもったらそれを自分で潰してるんだもの」
「うん……」
「悔しいでしょ?実際の自分をあんな風に言われたら!」
「……うん」

そう言われるとシリウス・ブラックとの初めての会話に怒りが沸々と湧いてきた。あんな言葉を投げつるなんて!!そりゃ、勿論わたしは可愛くないし、頭が良いわけでも、箒の名手でもないけど!!

、わたし頑張るわ!シリウス・ブラックを見返す!!」
「そう、その意気よ!!」

わたしは初めて感じた燃え上がる闘士を感じ、必ず、必ずこそあのシリウス・ブラックを見返して自分に振り向かせようと心に誓った。それは、わたしの人生が一変する運命の瞬間だった。




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