その夜僕は眠りにつくことを許されなかった。静脈がやけに騒ぐ。ざわざわとした思いが思考回路を襲う。あの女の正体は知れない。この思いの正体も知れない。僕はベッドで溜息をつき、いっそ忘却呪文でも自分にかけてしまおうかとさえ思った。次の朝、いつの間にか眠りから覚めていた僕はなんともいえぬ疲労感を感じざるを得なかった。これで大広間でで会おうというものなら僕はいっそ死んでしまいたい。あんな辱めを受けて僕はこれからどうしようというのだ。月曜の昼下がりに、またあの女は来るというのか。冗談じゃない。僕はのそのそと朝の食事を済ませに大広間に向かったがの姿はなかった。それもそうだ、彼女とあの月曜の昼以外会うことなどほとんどないのだから。僕はひとまず食卓につくと、頭がやけにぼうっとしているのに気がついた。なぜあいつのことばかり考えなければならないんだ。僕にあいつのことを考える意味はない。大体最近の僕はおかしい。レギュラスにあの女の素性を尋ねたり、彼女に自分から話をしかけたりと。あれから二週間、は姿を現さなかった。僕はこの想いを必死で忘れようと躍起になっていたのが、とてつもなく時間の浪費だということが分かったころだ。はぱたりと僕から姿を消して、ホグワーツにいるのかでさえ怪しく思えてきた。けれどのことを耳にする機会はあるし、彼女はここにいる。彼女は正真正銘の人間のだからだ。ぱったりと姿を消したかと思えば、三週間目の月曜、彼女はまた僕の特等席へふらりと現れた。彼女は変わることなく美しく、そして僕は変わることなく彼女の存在を無視し、読書をしている。
「久しぶり、セブルス。さみしかった?」
「なっ!」
はずだった。その次の瞬間唇が押し付けられて僕は彼女の思うがままに扱われた。僕は一体何が起こっているかも、僕にいったい何の感情が湧きあがったのかも理解できず、事態は進行していった。口づけが、深くなる。
「好きだといったでしょう、セブルス」
唾液を唇の端に光らせて言う彼女はまさに妖艶。僕はその美しさに目を奪われ呆然とするとその綺麗な孤を描く唇が、囁いた。
「私を好きになった?」
ふざけるな。僕はそう思いながらの唇にかみついた。何の知識もないその行為に体は自然と反応する。誰も来ないこの空間に誰かがこの行為を咎めることもない。そう僕はが好きだった。僕をめちゃくちゃにしたから今度は僕がお前をめちゃくちゃにしてやるんだ。お前を消しさることができたのなら僕はどんなに幸福でいれただろう。僕は今不幸だ。これが恋という綺麗な形で納められるものなのか僕は分からない。いつの間にか僕には醜い執着心というものが生れそしてそれを促したのはだ。切なそうに喘ぐ彼女の吐息が、その時僕をさらってしまえばいいのにと、思ったほどに。

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