掴み立ちをしても尚よろける我が子が愛しい。愛しい、愛しいとは思うんだが。



「はい、こっちおいでー。そうそう、いい子ねぇ」



甘い顔をして我が子に腕を広げて抱きしめるの表情ったら。俺にだってそんな顔をしないくせに息子にはそんな甘っちょろい声を出して、ようやくの足元に到達したをその白魚のような手で抱く。壊れ物を扱うようなその手つきに、当然だろと思う自分とずるい男だ、と一歳も満たない我が子にジェラシーを覚える。全く、とんだ女誑しである。



「ほら、シリウス。があなたを呼んでるみたいよ?」



手をめいいっぱい俺に振り回しての腕から抜けようとしている。珍しいこともあるのだと思った。いつもはあれだけ俺に懐かず、の腕で健やかな寝息を立てるくせに俺の腕に抱かれると一分もしない内にぎゃあぎゃあととんでもない泣き声を上げるくせに。俺は眉を顰めながらも内心密かな悦を抱いて、からそうっとふっくらとした体をこの手に抱く。



「珍しいこともあるんだな?いつもは俺が抱いただけでぎゃーぴーぎゃーぴー喚くくせに。」


「この子もあなたが父親だって自覚したのよ、きっと。賢い子ね」



がうっとりと俺の手に抱いてる小さな呼吸を乱さない生き物を見るものだからこれは相当な親バカだと思った。言ってしまえば俺も同じ立場なのだが、こんなにも心酔しているは、正直危ないのかもしれない。



「顔は俺似なのがまたなんとも・・・」


「でも私に似たって、オトコノコよ?」


「お前に似たって、どっちにしろ可愛い感じの顔になるんじゃねぇの」


「あら、私はかっこいい感じの顔の方が好みだわ。」



俺の顔はかっこいい感じなのか?と聞くと我が妻はどうかしら、と言葉をはぐらかす。いい加減素直になったっていいだろうに、夫婦なんだから。そっぽを向いた彼女の耳は、ほんのりと赤く染まっている。



「ハリーももうすぐ一歳なのよねぇ、この子たち、ホグワーツで同じ学年なのよね。願ってもないことだわ」



心底嬉しそうな眼をしては言うとその喜びように俺も少し口の端が綻んだ。そうか、ジェームズんとこの悪ガキもコイツと同い年だったよなぁとが言った事を自分なりの言葉に置き換えて反芻する。喜ばしいことだ。



「ハリーはジェームズ似で、コイツは俺似っていうことは面白いことになりそうだな?」


「そうね、きっとマクゴナガル先生は大変ね。今の内に忠告のお手紙を書いておこうかしら。」


「おいおい、それはどういう意味だ。」


「そういう意味よ」



少女のときの面影を残すようにはぱちんとウィンクする。そんな動作一つ一つが俺の鼓動の数に比例していくわけで、この我が妻も罪な女なことだ。すやすやとすっかり寝息を立ててしまっているこの小さな女誑しはそのぽっかりと開いた口の端によだれを垂らしている。全く、誰に似たんだろうか。



が寝たようだから一緒に」


「これから私リリーと会う約束だから!お願いね?」



パパ!と悪戯に笑うを見返して俺は大いなる溜息をつく。せっかく夫婦の貴重な時間だっていうのに、営みを大事にしようとは思わないのだろうか、この嫁さんは。



。」


「なぁに」



薄い青地の涼しげな花のコサージュを携えたバッグを肩にかけて、薄手の白いワンピースを揺らす彼女によびかける。間の抜けた半開きの唇に小さく音を鳴らすと、彼女はにっこりと柔らかい笑みを含んだ。長い睫毛が、上下に振れる。



「行ってきます、早めに戻ってくるから」


「とんだお預けだな?」


「浅ましい犬、だなんてジェームズがこの前呼んでたわよ?」



なんだと、と声を荒げるとそれを遮るように今度こそいってきまぁすと暢気に出かけの合図をはした。今度ジェームズに会ったらただじゃおかない、と俺は内に秘めるのを見越してかの声はどこかくすくすと笑いを含んでいた。腕の中の赤ん坊がが扉の向こう側にいなくなった後、タイミングよくぐずりだした。おいおい、コイツは今のいままで健やかに寝息を立てていたんじゃないか?



「ちょっ、待て!お願いだから泣くな、お前男だろ?」


「うっ・・・ひっ・・・うああーん!!」



なんだなんだこれは。俺は日頃の態度がそんなに悪いというのか?には放置されるわ、親友には浅ましい犬呼ばわりだわ、リリーに俺の愛妻を取られるわ。おまけに自分の息子に泣かれる始末。わあわあと大きく泣き声を上げるこのふわふわな生き物にも参ったもんだ。そんな俺似のこの女誑し(主にの)はジェームズ似の悪ガキ坊主と相性抜群なんだろうな。憎いことに!