イライラするんだよ。アイツを見てるとイライラする。俺にも、他のヤツらにも同じようにヘラヘラしやがって。


跡部さんに最近調子が悪いことを指摘されたのに輪をかけてイライラする。先輩、アンタは一体何を考えてるんだ。


俺といる時だってアンタは俺に目もくれようとしない。俺に触れようともしない。俺にはアンタと俺の関係性が見えてこない。名ばかりの『お付き合い』なのか?


俺がアンタしか見てないこと分かってんだろ?なんでこっちを向かないんだよ。なんでいつも素顔を見せようとしない。アンタはなんなんだよ!


愛想振りまいて、他のヤツらに告白されたらおさらばなのか。俺たちはなんなんだ?いつも疑問に思ってる。俺はアンタのなんなんだよ。アンタは俺だけに困ってればいいんだ。忍足先輩なんかの冗談なんかにクスクス笑ってなんかいなくていいんだ。アンタは俺だけにイジメられてりゃいいんだ。


先輩は狡い。アンタが俺以外の男と話してて不愉快にならないとでも思っているのか。それともわざとそうしているのか?俺には分からない。先輩は俺には自分の考えていることを口にしない。


俺といる時の先輩は上辺だけの会話しかなかった。そういえば出会った頃からそうだった。でもからかえば反応がきて、そしてその雰囲気に惹かれた。俺だけに見せるその反応に俺は嗜虐心をくすぐられた。だが、何か話しかけてもヘラヘラして流されてれば不満も募る。


アンタを見ていて俺が何を思わないとでも?何を思ってアンタといると思うんだ。アンタのその触れてはいけないような琴線を俺は断ち切りたい。アンタの激情的な姿を俺は見たい。俺はアンタをこんなに求めてる。なのに、先輩は何も言わない。


何を待ってるんだ?アンタがワガママ言ったところで対して俺は困らない。むしろその姿を俺に見せてくれ。先輩が俺の隣にいる度に肌に、温度に、髪に、心に、触れられなくて俺は苛立つ。稽古にも身が入らなくなる。


お願いだ、他のヤツらに笑いかけないでくれ。俺の中の嫉妬心という禍々しいものがざわめきだつ。性欲という厭らしいものが俺の体内を駆け巡る。アンタを愛しいという想いだけが、暴走して行き場を失いかけている。言葉、そして態度。アンタはどうしてどっちも俺にくれないんだ。


轟音が俺の世界にたつ。アンタを見る度に俺は首を力なく振る。優しく触れたい思いとアンタをめちゃくちゃに犯したい思いがぶつかる。俺は息巻く。俺の中の先輩はめちゃくちゃに乱れてて、想像を絶するほどにいやらしい。悪いが俺はもう耐えられない。


これ以上アンタを待つなんて俺にはできない。だから一緒に帰るはずだった先輩を部室の壁に押し付けた。鍵は閉めた。完全な密室で、アンタはどうする?またヘラヘラ笑って逃げるのか?





「日吉・・・?」


「なんだよ。怖くないのか?」


「・・・日吉?」


「俺が今何しようとしてるのかアンタには分かるか」


「・・・・・・」





そうして先輩はうつむく。また逃げるのか。だがもう逃がしはしない。アンタの中身を全部暴いてやるよ。俺はジリジリと先輩に近づく。上から見下ろす先輩の顔は赤みを帯びていて、長い睫毛に縁どられた瞳は潤んでいる。そんな姿に俺は背筋がゾクリ、と脈打つのが感じた。





「日吉・・・」


「アンタが何考えてるか分かんないんですよ」





俺はまくしたてるように言うと先輩の返事も待たずにさくらんぼの香りがする唇に噛み付く。初めてのキスだって関係ない。苦しそうに息を荒らげる先輩にお構いなしに俺は深く、角度を変えて激しく口付ける。酸素がどんどん体内から抜けていって思考回路が鈍る。俺はもう欲望の塊だ。


先輩の顎を支えて片方の腕は壁で二人の体重を支える。先輩はぎゅっと俺のネクタイを握締めるが、拒否の反応は見せない。先輩の下唇をぺろりと舐め、隙を見て舌を差し込んだ。小さく開いた口から卑猥な水温が聞こえる。もう止まらない。理性は利かない。





「はぁっ・・・・・ひよしっ」


「・・・なんですか」





彼女が俺の唇から逃げるから何か言うのかと俺は肩を上下させながら唇を離す。しかし逃げられたら困るので先輩との顔との距離はほとんどゼロ距離。濡れた瞳が俺を見つめる。この瞳を見ているとイライラする。だが、同時に愛しい。息を整えるために先輩は瞳を閉じる。





「すきなの・・・・・・」


「・・・は?」


「すきなの、ひよし・・・」


「この期に及んでソレですか・・・」




言葉を発する度に息が鼻にかかる。先輩の唇の端についた透明な液を舌先で舐めとれば先輩の肩が震える。





「いやじゃないんですね?」


「・・・・・・うん」


「言って下さいよ」


「なにを・・・?」


「好きなら好きって言って下さい。分かんないんですよアンタの考えてること」


「・・・恥ずかしいじゃん」


「だったら恥ずかしがればいい。俺にもアンタのイジメがいがある」


「・・・もう」





なんだよ。恥ずかしかっただけなのか。そうか、恥ずかしかっただけなのか・・・。俺は何を焦っていたんだろうか。だが何も言わない先輩だって悪い。俺を求めようとしないアンタが悪い。俺は至近距離で先輩を睨みつけると今度は先輩が俺のネクタイを引っ張って小さく口づけた。俺はそのまま頭を引き寄せて先輩の唇を貪るようにキスする。


必死に俺の口づけに応えようとする先輩はかわいい。俺だけが知る、アンタの顔。小さいアンタの頭にふわふわとした髪の毛。俺だけを惑わす甘い匂い。全てを俺のモノにしたい。俺がアンタを好きならアンタの全てを俺のモノにできるだろうか。アンタが俺を好きなら俺の全てをアンタのものにできるのに。怖がってるんじゃねえ。





「アンタはバカなんですよ」




熱に溶かされて布越しに触れている指の感触がどんどん欲に溺れていく。じりじりと湿っていく肌と高揚していく気持ちに俺たち二人だけが世界から遠のいていく。先輩は俺が問いかけるように触れると全てを受け入れた。なんだ、アンタも同じこと考えてたんじゃないですか。ほんっとうに、あれだけ悩んでいた自分とアンタがバカらしい。今までぐずぐずしていた俺たちは分刻みで愛しあっていくことになるんだ。そうだろう?


世間とは切り離された二人だけの空間に俺は甘くて熱い空気のせいで朦朧としてくる意識の彼方で、密かに微笑んだ。