幸村精市 「どうして欲しいのか言わないと……あげないよ?」 精市はいつもわたしに言葉を求める。わたしは恥ずかしいときすぐに笑ってしまうから、そんなこと、言えないってわかってるのに。 「や…いじわる、しないで…んっ」 「そう言われるともっと焦らしたくなる」 「やあっ…せいいち、もうっ、わたし…!」 「ほら、最後まで言わないとイケないよ?」 精市はそう言いながら腰の動きを更に早める。わたしを限界に誘いながらもギリギリの際でわたしを巧みにイカせないようにしている。なんて器用な男なの。 「あっあっ、せいいちっ」 「言わないとダメだよ」 「もうっ……ダメっ」 「なにが?」 「やあっ」 「ほら」 「はあっ、あっ、せっ……せいいちっ」 「言えってば」 「イカしてっ……!んっ、ああっ!」 肩で息をして、遠ざかる意識がぼうっと、戻ってくる頃に、精市は汗を前髪から滴らせながら自分もいっぱいいっぱいなのか、苦しそうに微笑んだ。 「ダメじゃないか、俺の言う事聞かないと」 その美しさと凛々しさに惑わされるわたしがいて、もしかしたら初めてこの『器用な精市』は完成するのかもしれない。だって、そんな余裕のない顔とその汗。 彼の首に腕を回してわたしの胸に、精市を慈しむように抱きとめた。 仁王雅治 雅治に最近いろんなシチュエーションでプレイするのも燃えるって友達が言ってたよーと、単なる話題のひとつとして伝えたのにまさかこうなるとは。 「テーブルに散らばる書類…これほどいいシチュはなかろ」 「えっでも……」 「おお、おお、秘書ごときが社長に口答えする気かの?」 雅治はもうすっかり社長気分。すっかり乗り気なもんだから仕方ない、と思って付き合ってあげようかな、と思った。そんな自分が甘かった。雅治はいつもよりお盛んな様子で、焦り焦りとテーブルに腰掛けるわたしに近づくとすぐにキスしながら押し倒してきた。 「あー書類が下敷きになってぐしゃぐしゃじゃ」 「そんなっ…誰が……っ」 雅治はわたしの唇の端をぺろりと舐めるとすぐに舌を入れてきた。スカートはたくしあげられ、ゆるゆると手が太ももへと伸びてくる。空いたもうひとつの手は器用にもシャツの下からブラのホックを一瞬で外してしまった。 口内は舌で犯され、他の性感帯もすべて雅治に支配されている。それもここは部室、でわたしは部外者。 「なんもしてないのにこんなに濡れとる」 すっと割れ目をショーツ越しに人差し指で撫でると「ああっ…!」と声が漏れてしまう。どうやらわたしもかなり興奮してるみたい。 「下にある書類に垂れたらおまんが処理しんしゃい」 「ふっ…やぁ…っ」 「"社長"と呼ぶぜよ」 「しゃちょ…そこはやめて…ください…っ!」 すると雅治はにたり、と口角をあげて意地悪くわたしを見下ろした。その瞬間雅治は中指をショーツの横からぐっと押し込んできて慣らすこともせず核を弄りだす。小刻みに中指で核を撫でるように動かすものだから、わたしの腰もいやらしく上下に揺れだす。 「あんっ、ああっ!」 「『社長、そこはやめて下さい』じゃと?そこってどこかのう?」 だんだんと早くなっていく指の動きと胸を這う手にわたしはどんどん意識が離れていって無我夢中で雅治にしがみついた。 「しゃちょっ、や、あんっ、ああっいやああ!」 雅治のシャツがくしゃくしゃになるほど力強く握り、わたしはあっという間に果ててしまった。ハッとして自分の下にある書類を見ると確かに書類はもうべたべた。これは・・・ 「真田に怒られる…」 「俺は知らん。おまんが片付けるきに」 「なによ、雅治がこんなとこで…!」 「しゃちょう、じゃ」 「なにが社長よ!こんの、バカ治!!!」 わたしはぐしゃぐしゃの書類を雅治に叩きつけるとさっさと服を整えて部室を出てってやった。途中で真田が彼女のマネージャーを連れて部室に向かって行ったけど、もう知らない。真田の彼女もわたしと違って結構真面目っぽいし、二人からお小言くらうかもしれない。……でも焦ってあの書類を片付ける雅治も、ちょっと見てみたかったかも。 わたしはあそこで必死に書類を片付けて、真田に遭遇して慌てふためく雅治だけを見に行くためだけに踵を返した。 海堂薫 観覧車が外から見ればゆったりと回転するアトラクションなのに乗ってる側からはゴンドラにゆられているだけのような感覚。周りの景色がだんだんと自分たちの目線から離れて行って、上から見下ろす感覚はまるで小さな子の手から離された風船から見た光景だとわたしは思った。 「ここから青学も見えるかなーっ」 「学校は向こうら辺っスね……こっちからじゃねぇと見えねェ」 「じゃ、そっち行く」 わたしはゆらゆらと揺れるゴンドラの向こう側に移動する。太陽にどんどん近づいていくのはなんだか自分が天へと昇っていく感覚にも思えた。これがもし、朝焼けから見れたら、世界が沈んでいるように見えるのかなあ、と思いながら。 「青学ありましたよ」 「えっ、どれどれ?」 わたしははしゃいで思わず片方のベンチに体重をかける。するとゴンドラが必然的にぎぃ、と音を立ててほんの少しわたしと海堂くんの距離が縮む。海堂くんがハッとしてこちらを向くと少し身を乗り出していたわたしと目線がばっちりあった。 「あっ…」 わたしはごめん、と言いかけて顔を背けようとしたら、海堂くんが今までにないほど力強くがっしりと肩をつかむ。 わたしはびっくりしてそのまま目線を外せぬままいると、海堂くんは少し目を伏せがちにわたしを見据えて言った。 「……キス、してもいいですか?」 わたしはその瞬間、普段あまりそういうことを口にしない彼に目を丸くしたと思うけど、真摯な彼の一筋の視線の返事の代わりにそっと目を閉じた。じりじりと体温が近づくのが目を閉じていてもわかる。 唇にやわらかい感触を感じた。少し、かさついた皮がわたしの唇を這う。何度も何度もしているキス。けれどいつでもそれは初めてのキスのように、甘くて少しほろ苦くて。先程までわたしはあんなに外を見るのに夢中だったのに、今は目の前の彼に夢中。 きっともうゴンドラは頂上付近。そしてまたわたしたちの熱も。海堂くんは角度を変えてキスを続ける。わたしもそれについていこうと彼の動きに合わせる。唇に熱が注ぎ込まれているようで、息苦しい。少し唇を離したと思ったら再び唇は重なった。だんだんと激しくなってくるキスに、わたしはいささか戸惑っているとぬるりと唇をなにかがなぞるのを感じた。わたしはそれが舌だと気づくと、体がそう知っているのか小さく唇を開く。海堂くんなら、嫌じゃないから。けれど舌がすこし、入ってきたところですぐに唇は離されてしまった。 「っ…これ以上は、マズイ」 「はあっ…かいどうくん…?」 「止まんねェ……」 海堂くんはそう呟くとわたしをぐいっと離して、顔を赤くした。止めなくても、いいのに。いつもいつもわたしをそうやって大事にするんだから。わたしはふとそう思って、窓辺を見る海堂くんの肩をたたいた。 「なんです……っ」 彼が振り向いた瞬間に唇を奪う。 ゴンドラはわたしたちを地上へ運んで行く。けれどわたし達は逆にふわふわと熱を浮かせていく。ぴちゃ、と水音だけが揺れるゴンドラの中で響いた。 切原赤也 「たまには俺も気持ちよくしてくださいよ」 赤也はねだるようにわたしを見上げる。わたしは赤也のわがままに答えてチャックから手を忍ばせる。 もうそれはすでに大きく期待をふくらませていて。たまにしかわたしの口や小さな手で相手をしないから少しさみしいのかな、なんてバカらしいことを考えてしまう。根元からやわやわと刺激を与えていくと赤也は苦しそうにうめく。 「ここがいいの?」 わたしは親指で円を描くように先端をなぞる。 「くっ……あっそれいいっ…ス…!」 手を上下させて赤也の鳴る喉に合わせて指を動かすと赤也は一層身悶える。たまにはこういう彼の姿を見るのも悪くないかも。屈んで、すでにはちきれんばかりに熟れたソレを口に含むと赤也は「うあっ」と大きく喘いだ。チューペットを吸うようにちゅうちゅうと音を立て唇で甘噛みする。舌を絡めて包み込むように唾液を塗りつける。これは、わたしのもの、という証のように。大きいものにわたしは若干持て余していたけれど、赤也の気持ちよさげな、額に汗を浮かべた顔を見ればもっとその顔を歪ませたくなる。わたしってば、案外Sなのかも。 「…ンッ!もう…ヤバいッス………!」 どくんどくんと肌越しに脈打つ。その瞬間どろっとしたものが一気にわたしの喉へ流れ込んで、わたしはいきなりの衝撃に赤也のものを離し、むせた。けれど余ったどろどろがそのまま少し顔にかかって、思わず目をつむる。 「顔射、しちまった…」 赤也は申し訳なさそうにわたしの顔についた液をティッシュでぬぐう。けれどどこか嬉しそうで。子犬のように尻尾を振っているようで。 「赤也」 思わずそのかわいさに、いとおしさに赤也を抱きしめずにはいられなかった。 手塚国光 「…帰さない」 国光がわたしの手を握り締め、レンズの奥の瞳は、まっすぐわたしだけを見据える。最近忙しくてあえなくて、欲が募る一方だった。国光はいつになく積極的で、今もわたしの手を強く、わたしが離すことも許さないかのように握り締める。その瞳に見つめられただけで、わたしははっと息を飲んでしまうほどに彼に溺れていた。 「今日は帰さない」 「国光……」 「いいな?」 国光はわたしの返事を待つことなくあっという間にわたしの唇を彼ので包み込んだ。腰掛けているベッドがギシリと軋む。掴んだ手に指を絡められ、そして国光はいつもより性急にわたしを求める。考える間も与えられずにキスをされ、そして今も思考回路は正常に働いていない。侵入してくる舌に応えるのが精一杯で服の下から這い出した手にも気づかないで。息が苦しくなって唇を離すと一気にベッドへと体が沈んだ。国光は眉根を顰めて切なそうにわたしを見下ろす。その視線がわたしをうずかせて。彼が生唾を飲み込んだ瞬間、わたしは国光の首に腕を回した。 「もう帰さないで」 「……ああ」 国光はそう答えると、わたし達を遮る眼鏡を外して再びわたしに視線を注いだ。 その瞳はわたしに欲を訴えていて、わたしはどうしてもいつも眼鏡の向こう側に隠された素顔の国光を、心の底から愛しいと思ったのだ。 木手永四郎 「一緒に帰りませんか」 彼が耳元でそう、囁いただけなのに。この胸の動悸は、おさまらない。永四郎は声で、視線で、そして仕草で、わたしを誘惑する。ただ歩いているだけなのに、ただ見つめられてるだけなのに、ただ名前を呼んでいるだけなのに、わたしはそれに甘い疼きを覚えてしまって、夕べの一時を思い出してしまって。 「……うん」 夕日で廊下までもが赤く染まっているから、わたしの頬がわずかに赤らんでいること、わからないよね。 わたしがそう高を括っていると、永四郎は眼鏡の端をいつもの癖であげて、わたしをその瞳で見つめた。それだけで、ぐっとわたしの体温が上がる。 「何を想像しているんですか」 「…なにも?」 「嘘だ。顔が赤いですよ」 指摘されたせいかまたぐっと体温があがる。熱があるんじゃないかと疑うほどに。永四郎は何が嬉しいのか口角をわずかにあげ、わたしの顔をのぞき込んでくる。 「キス、していいですか」 その言葉に反応しようとした隙に、永四郎はあっという間にわたしの唇を奪ってしまった。小さく開いた唇から、ぬるり、と舌が侵入してくるのが分かる。ここは廊下なのに。下校時刻でも、誰か見てるかもしれないのに。そんな意識は彼方へと飛んでいく。 「はあっ…えいしろ……」 「そんな顔をしないで下さい。ここであなたを犯してしまいそうだ」 永四郎の手がスカートの上から腰のラインを柔らかく撫でただけで、わたしは子宮がジン、と熱くなるのを感じた。まだ、まだ。もっと欲しい。 「……いつになく大胆ですね」 わたしは自分から永四郎の唇に口づけた。けれど、いつもされるがままで、やり方がよくわからなくて。 「俺がそんなに欲しいんですか?」 永四郎は熱を込めて視線をわたしにレンズ越しに注ぐ。その瞳が、わたしを誘惑するから。 「ほしいよ」 「……いけない人ですね」 永四郎はそう言うとわたしの手を取り手の甲に口づけた。ぺろりと、わたしの肌を舐める。それだけでかあっとまた体温があがって、たださえ暑い沖縄だというのにわたしか芯から溶けそうだ。 「家に帰ったら、たっぷり愛してあげますよ」 跡部景吾 「ねーまーだー?」 「アーン?もうちょっと待ってろ」 日も傾いてきて、もうすぐ沈んでしまう頃、わたしと景吾は生徒会室にいた。ほとんど書類の処理は跡部のお付きのヒロくんがやってしまうんだけど、たまには景吾が目を通さなければならない書類もあるらしい。せっかく今日は部活もなかったのに。最初の頃は景吾の仕事ぶりをじっと眺めていたけど、数時間もそれを続けられるほどわたしに忍耐力はない。景吾の真剣な顔、好きだけど、その視線がずっと書類に注がれているのはおもしろくない。 「今日はデートできると思ったのに…もうすぐ6時だよ」 「あと5枚だ、我慢しろ」 「……さっきからずっと我慢してますう」 わたしがぶうたれると景吾はようやく顔を上げた。コート上では凍てつくその視線も、わたしには陽だまりのようにやさしい。でも今日はいつになく疲れたようで、それでいていたずらっぽさが見え隠れしているような……。景吾が小さくクツクツと声を上げて笑いながら腰を上げたので、何が面白いのかとわたしは眉をひそめた。 「お前はかまってちゃん、ってヤツだな」 「……そんなことば誰から覚えたの」 景吾はその視線をわたしの瞳に注ぐと、退屈からやっと逃れられると嬉しそうにわたしに口付ける。それはいつもより性急で、舌先でくちびるをこじ開けられるとねっとりと景吾の体温が舌に絡みついた。酸素が恋しいくらいに激しくキスをされて、思考はとろとろに溶けていく。酸欠になると、頭が回らなくなるっていうけど、わたしは自分が押し倒されていることに気づいた時にそれを実感した。景吾のアイスブルーの瞳が、わたしを見下ろしている。 「ここで同じようにしてたらつまんねーか」 「え?」 「ホラ、脱げよ」 景吾がぷちり、とわたしの第二ボタンだけ外す。でもそれだけじゃ下着も満足に覗かない。でも、景吾はそれ以上手を進めずニヤニヤ笑いながらわたしを見下ろしている。 「自分で脱げ」 わたしはその時、困ったような、それとも羞恥に満ちていた表情をしていたのか景吾はこの状況をとても楽しんでいるかのように見える。景吾の手がシャツの上を這う。それは優しく、指に力を入れるだけで刺激が肌にいきわたらない。 わたしはどうしてもその先がほしくって、でも景吾は脱がしてくれなくて、どうしようもない焦れったさに泣きそうになった。 「脱がねーと何も始まらないぜ?」 「わ、わかったわよ……」 わたしは臙脂色のネクタイをしゅるりと器用に外す。すると景吾は子供のように、でもそれは確かに大人のそれの欲求に瞳をきらめかせた。ボタンをもたもたと外すわたしを急かすこともなく、景吾は面白そうにわたしを眺めている。その視線が注がれるだけで、わたしはむず痒くなるのに。 シャツを脱ぎ終えて脇に置いても、景吾はまだ素肌のわたしに触れようとしない。 「下着もだ」 わたしは言われるがままにブラのホックに手を回す。ぷちり、と静かな生徒会室に金属の擦れる音が響いた。開放された胸に思わず目をそらすと、景吾は「ほら、外せ」と迫ってきた。肩から紐を外すと、わたしは反射的に手で胸を隠してしまった。景吾は満足そうに笑みをその形良い唇にたたえると、わたしを机の上に押し付ける。耳に唇が触れて、自分で抜いだことによけい興奮しているのか、その行為だけでゾクゾクと震えてしまう。 「良い子だ」 バカにしないで、という言葉は全て体温に溶かされてしまいわたしのかすかに喘ぐ声だけが残った。舌が肌を這い、指はゆっくりと刺激を送っていく。だんだんと沈んでいくはずの太陽が、雲に覆われてわたしたちの甘い情事から、目を逸らしていた。 |