、その爪はなんや。学校の規則で禁止されとるやろ!」
「あーもう蔵ノ介はやかましわ!!爪をどーしようとうちの勝手やろ!」
「それはあかん。俺は自分の世話をのおばちゃんに任せられてんねん。見過ごすわけにはいかんな」
「毎日毎日ウザくてかなわんわ!もうかまわんとってくれへん?!」

この口うるさい男はわたしの幼馴染の白石蔵ノ介である。幼い頃はなかよーく一緒に遊んどったけど、最近はやかましゅうてかなわんこと、かなわんこと。なんなん、ほんま。中学生になってテニス全国大会行くようなって、ちょーっと顔が良くってモテてるからって、調子に乗りすぎちゃうん?!ウチのことは放っといたらどうなんや。イライライライラ。蔵ノ介のお説教にあたしはいつもこの苛立ちを積み重ねている。

大体ウチの校風は結構自由。規則、規則言うても四天宝寺はゆる〜い学校なんや。笑いがナンボ!っちゅー感じでな、皆一芸に秀でてんねん。ウチ?ウチはな、この通り、読者モデルやってんねん。最近は事務所の話も出てて、ほんまもんのモデルにならへんかーって言われとってな、いい線いきそうなんや!ってところでこの男がしゃしゃり出おってな、最近前よりやかましゅーなってきたんや。ほんまに勘弁してほしい。

「なんでそない口出すん?ウチが前から派手な格好しとんの知ってるやろ!」
「最近チャラチャラしすぎやって言うとるんや、俺は・・・」
「もー、自分がやかましーから爪も控えめなんやで?!これ透明でラメしか入ってないんや!ほんまは原色バリッバリで塗りたいの我慢してんねんで?!」
「原色ぅ?!そんなんいいわけあるかボケ!!俺が許さへん!!」
「蔵ノ介が許さんでもええねん!別にアンタの許可いらんし!」
「大体その睫毛はなんや!そんな長いわけあらへんやろ!!化粧落とし持ってきたからこれで落とせや!!」
「ハァ?!なんで蔵ノ介にそこまでされなあかんのーーーーーーー!!!!!」

蔵ノ介はビオレの化粧落としを取り出してわたしの瞼に塗ったキラキララメのアイシャドウと丹念に睫毛をカールして塗ったマスカラを取ろうとする。もう、わたしと蔵ノ介と落とす、落とされるのすったもんだの攻防戦。絶対、絶対このアイシャドウとマスカラを落とさせてなるものか!!

「ぐぬぬ、自分学校のマドンナに何すんねん!!」
「学校のマドンナやて、自分で言うてたら世話ないわ!!」
「やかましわ、ボケ!!校内美少女ランキング一位やったんやで、これでも!!!」
「あら、蔵リンにちゃんやないのお、校門で二人で何してるん?」
「蔵ノ介が乙女の命のマスカラとアイシャドウを落としてきよるん!!!!小春ちゃん止めて!!!!」

途中で小春ちゃんが乱入してきて、わたしは助かったと安堵した。小春ちゃんは理解あるから、蔵ノ介をなんとか説得してわたしの化粧を落とすのはやめさせてくれた。ああ、小春ちゃん、アンタは救世主、そや、メシアやで・・・!!

「窓からなんや、仲良い二人が揉み合ってるから何かラブ的な展開が待っとると思って来たのよ〜」
「ラブ的?!小春ちゃんそれはえっらい誤解やで!ウチと蔵ノ介はタダのお・さ・な・な・じ・み!腐れ縁なんや!!」
「腐れ縁はないやろ、・・・俺地味に傷つくで・・・」
「ほらっちゃん蔵りんが落ち込んでるやないの!そない冷たいこと言うたらアカンで〜」
「だって・・・最近蔵ノ介マジウザいし・・・そんなん髪色は黒やし、化粧とか爪なんてウチの自由やんか・・・小春ちゃんなら分かってくれるやろ?!」
「女の子はいつだってキ・レ・イでいたいのよね〜んっ!!分かるわ〜分かるわ〜アタシ!でも蔵りんはちゃんが心配なのよ〜んっ!!ちゃんがキレイになりすぎて他のオトコのコに取られないかヤキモキしてるのよんっ!!」
「小春ちゃ〜ん、まっさか蔵ノ介に限ってそないことあるわけないやろ?冗談も休み休み・・・」
「せやで?が他の男に取られるん、俺は嫌やで」
「は?」

小春ちゃんが「キャッ!蔵りんたら大胆!!」って横で色めきだっとってたけど・・・。は?今蔵ノ介何言いよった???わたしの思考回路が見事なまでについてかない。わたしは唖然としてマヌケな顔で蔵ノ介を見ていたと思う。その証拠に蔵ノ介が「、校内一のマドンナが口開けてヨダレ垂らしてんで・・・」と言いながら鞄からハンカチを出してそれを拭ってくれた。いつもの蔵ノ介だ。・・・いつもの蔵ノ介か?

「おーい、置いてくでー」

ブンブンと目の前で手を振られてようやくハッと我に返る。いつの間にか小春ちゃんの姿はなかった。いるのは蔵ノ介と、その他の生徒大勢エキストラ。

「・・・さっきの冗談やろ、蔵ノ介?ウチに男ができようと自分関係あらへんよね?」
「関係ないわけないやろ、。俺はいつでも真剣そのものや」

それは分かる。というかドヤ顔で言われた。蔵ノ介の瞳が真剣そのものやから、不覚にもわたしはドキドキしてしまっていた。だって、蔵ノ介、テニスやってる時みたいな、眩しい眼差しをあたしに向けてる。小さい頃、「は俺のお嫁さんになるやろね〜」って言われた事は!あるけど!あれは!子どもの!遊びで!!!

「ほんま、いっつもはぐらかされるしなあ・・・勘弁してくれへんか、そろそろ」
「な、な、な・・・何を言うとんねん・・・」
「何って告白しとんねん、それも分からんか」

蔵ノ介はわたしは動揺しているのをいいことに不敵な笑みで笑う。こっの、顔だけは整ってるからって様になることすんな!!ムカつく!腹立つ!!何が腹立つって、このバクバクとやかましい心臓に!!

「そ、そんなん言われても何もでえへんからなっ!!」
「そういうんは返事をするのが道理やろ、。そんな風に育てた覚えはないで」
「アンタに育てられた覚えもないわ!!って・・・へんじ?」
「せや、俺が好きって言うとるんや。はどう思ってるんか教えてくれんと」

そしてあの妖しい笑みから一編としてまたその貫くような視線を向ける。だ、だから、そんな風に見んでよ。ドキドキしてまともに考えられへんやんか・・・。ん?ドキドキ?なんでドキドキしてんのやろ、ウチ・・・。

「そ、そっなんっ、すぐは答えられへんっ」
「ほーか?じゃあなんで目逸らすん?さっきの威勢はどこいったん?」
「やかましいわ!これで冗談言うたらしばき倒すで!!!」
「はぁ・・・冗談なわけないやろが・・・もう10年越しの片想いやで?」
「じゅうねんごし・・・」
「せやで、それはもう無駄のない純愛一本一筋や。ピュアやで?」
「自分でピュア言うとったら世話ないわ・・・」
「10年越しぐらい言うたらピュアやて言うてもええやろ、なあ?」

蔵ノ介は至って平然とした、いつもの態度でわたしの顔を覗きこむ。ああ、もう、その無駄にある背丈も、わたしを見下ろしてニヤつくのも、ああ、ああ、全てが!!ムカつく!!!ムカつくのに!!どうしてわたしの心臓は!!!

「その前にメイクはナチュラルメイクが俺は好きやで?ナチュラルメイクはええで、顔の素材が引き立つんや。は元がええから、ナチュラルメイクで十分や。無駄な小細工はいらんで」
「ナチュラルメイクいうてもなあ、あれ時間かかるんやで!ナチュラルに見せるのに肌を念入りにファンデでカバーや!!!派手メイクより厚塗りやボケェ!!」
「でもなあ、はナチュラルメイクが似合うと俺は思うんやけど・・・」

蔵ノ介が明らかに落胆したような素振りを見せている。わたしはそれを見て、少し居た堪れなくなって思ってもみなかったことを口に出してしまった。

「ま、まあ蔵ノ介がそこまで言うんなら?た、たまにナチュラルメイクしたってもええけど・・・」
「ほんまか?!それはOKっちゅーことでええんやな?!」
「そ、それはまた別の話で・・・」
「ん〜エクスタシー!!俺はやっとこの10年越しの片想いを遂げたで・・・!」

するとどこから現れたのか、校門の傍で四天宝寺テニス部とクラスメイト達が湧いて出てきて急になんやかんやとお祭り騒ぎになった。蔵ノ介は銀さんに担がれてパレード状態やし、当のあたしは小春ちゃんを筆頭にクラスの女子から「そうなると思ってたんよ〜っ!」って詰め寄られて祝われるしで、もうなんのなんの。でも蔵ノ介が嬉しそうやからなあ・・・。あんな喜んだ顔見て、大人びた顔に隠れてた男の子らしくて可愛い笑顔を見たわたしは自分も心なしか微笑んでいた。もう校内の公認カップル扱いということでしばらく騒ぎは収まらなかったけれど。蔵ノ介ほんまに嬉しそうだし。ま、そういうことでもええかな。そう小さく呟いた後、わたしは担がれている蔵ノ介が降ろされた時その胸に飛び込みに行った。