時は、巡る。あれから淡い思い出ばかりが自分に纏わりついていつまでも君の影を俺は追う。君の匂い、君の好きな花、君と似た髪型の女の子。そして君を見かける。だって皮肉な事にクラス同じだから。俺は目で君の中で一番好きだった部分を追う、その小さな手を。ささくれができちゃうんだよね、って飲食店のバイトを始めるようになってから少し悲しそうに指先を俺に見られないように隠してた。その仕草がとっても愛しかった。それだから、俺は君の指を手にとってキスして。でもあの時の気持ちはとても今は眩しくて、すごくすごく、胸に痛いんだ。


俺はどうして君を突き放せないんだろうか。いつまでも君を好きでいる自分が好きなんだ、きっと。きみなき世界に耐え切れなくて、自分で鳥かごに佇んでる。君に縛られてるととっても安心で、恐ろしい寂しさから逃れることができる。毎日君を目にする度、心が悲鳴をあげてる。それでも、俺は君という名の鳥籠に自分を閉じ込める。それで外から鍵をかけてしまって。君が俺に置いていった苦しみ、全部受け止めるからどうかここにいさせてと、俺はいつも懇願してる。



背が高いところが好きだよ、って自分ではテニスでの長所としか認識してなかったところを褒めてくれた君は。もう、いないんだろうか。まだ君は俺の背の高いところが好き、とその唇で答えてくれるだろうか?俺は期待している、俺とは違う人に向いてる気持ちが俺にまだ残ってることに。それが俺を引き裂いてることに、俺は気づいてる。



でも君という指針をなくしてどうすればいいんだろう。広大な平原で手ぶらで歩いてる気分だ。夜空を眺めて延々と歩き続けてる。あの時じゃれ合ってた俺たちはこの平原のどこにいったんだろう。ああ、もうこの平原にはいないのか。この平原には君はもういなかった。なんて俺は馬鹿なんだろう。だってここはもうきみなき世界。「愛してる」呟いても誰も答えてくれはしない。木霊する山もない平原だもの。




俺はひたすら歩くよ、君が見つかるまで。このきみなき世界で、君を見つけるまで。