もう、触れないで。わたしは最後にあの時話したジローへの気持ちを置いてきたの。ちゃんとお葬式をあげたの、わたしのために。ジローと過ごした日々を走馬灯のように巡らせて、別れ話した日ジローと過ごした「わたし」はもういなかった。「好きな人できちゃったんだ〜……。ごめんね」って。今まで隠れてその人と連絡とったりしているのわたしは知ってたよ。一緒にいてもどこか上の空だったね。わたしと映画観賞して、ゴロゴロまったりするはずだった休日。携帯の着信音が鳴り止まないのわたし、分かってた。見て見ぬフリしてた。いつもだったら俺に構って構って、ってすごく膝枕をねだってくるのにそれももうなくなって。音もなく崩れてくジローとの日常に気づいてた、わたし。


「でも友達ではいてほしいな」ってジローの苦しそうな懇願、わたしは受け入れてしまうかもしれない。でももう、関わりたくないんだ、ごめんね。だからわたしの心の中ではジローはもうわたしの知るジローじゃないの。それに、ジローが知るわたしはもういないの。身勝手で、すごく腹立つときも今でも度々ある。その笑顔はわたしじゃない誰かに向けられてるんだもん。そんなジロー、わたしはいらないし、友達であってもほしくもない。だからこれからのわたしのこと、もう知ろうとしないで。わたしはあの時のわたしを置いてきたの。ジローにとってわたしはもしかしたら都合の良い存在なのかもしれないね。でもわたしそんなの嫌だから。口では何も言わずにジローを受け止めるフリした。でもそんな事やっぱりできないね、わたしの心、苦しくてしんじゃう。


ジローが子どもだって分かってる。だからそんな風に他の子とわたしを天秤にかけて他の子を選んだんだよね。それでわたしとお友達〜って、そんなのってないよ。だからわたしは最後に別れ話をした日に喪服を着ていった。黒いAラインのワンピース、ジローはきっとその意味に気づいてない。喪服を纏ったわたしはジローの利己的な弁解とけじめという名の揺らぎっぱなしのお喋りを聞くだけ、そう聞くだけ。もう疲れちゃった、ごめんねジロー。別れたくないって縋った時のわたしはもうあの日に置いてきたの。でもジローはまだわたしが待ってるって信じてる。わたしがまだジローへの恋心抱いてるって苦しんでるって勘違いしてるって、ジロー柄にもなくわたしといる時気を遣うことでわかっちゃうんだもん。


謝ることももうないね。だって二人の関係名は「他人」だから。あの時は深呼吸するように、この恋の行方を確かめていた。酸素いっぱいに満たしていた思い達を、わたしはもう棄てたい。だから、わたしはジローと過ごした思い出を黒く塗りつぶす。そしてあの日に帰ることもない。でもジローは何も知ることはない、……わたしの遺棄した恋。