球を壁に打ち込む。パコン、パコンと球がラケットの面との往復する音と俺の息遣いだけが夜の帳を包んでいる。汗をかけばがんじがらめになり全身を掻きむしりたくなる衝動を抑えられるような気がした。打つ、殺す、打つ、殺す、打つ、殺す。そんな風に思わなければ俺はこの手を本当に血に染めてしまうかもしれない。あんなに愛し愛され隣で微笑んでた、お前の姿は嘘だったのか?俺には分からない、女心なんて不可解なもの。秋の空って言われる程なんだろう、それは。ああ、俺は陰湿だよ。こうやってお前の幻影を打ち殺してる。球にありったけの殺意込め、こうしてお前を切り離せない俺を殺そうとしてる。振り払えない幻影はいつまでも俺につきまとって、そして俺を惑わす。居場所を失った俺にお前は何を求めるんだ?お前は隣で爽やかに微笑んでいる新しい男がいるだろう。俺のなにがいけなかったなんて今や全部どうでもいいことなんだ。考えたら考えた分だけ俺の傷が抉りに抉られ、腸が飛び出る。ぐちゃぐちゃ、ボトリ。嗚呼、そんな気分なんだ、今俺は。ムシャクシャとしてるだなんてそんな簡単な言葉では言い表せない。昔俺と一緒に行った、お前のお気に入りのカフェ。モンブランの周りのクリームを丁寧にフォークで掬って、中の栗を嬉しそうに頬張って、目を輝かせて。暖色の照明に照らされた笑顔、そんなお前の記憶を今は俺はぶち殺したい。血塗られた殺人衝動、それを俺は健全なる自主練習のという名の下で発散しようとしてる。そんなの無理だって、分かってる。一球に込める力に呪いのような禍々しい俺の意識が入り込む。きらきらしたそんな想いはもういらない、あの時お前からもらった想いなんてものは消えてなくなればいい。なくていいから、俺の目の前に立ちはだからないでくれ。お願いだ。邪魔なんだよ。そろそろどいてくれないか?俺を好きだって言わないお前なんていらない、同じだけの愛を返してくれないお前なんていらないんだよ。鳳?ああ、俺とは正反対だよ、そうだよ爽やかで純粋。ネチネチした俺とは大違い。だからなんだ?俺は氷帝次期部長。どうせお前だって鳳に飽きる頃が来るんだろう。それなら又反対の魅力の人を求めるだろう?馬鹿馬鹿しい。だからお前は馬鹿だって言ってんだよ。なんだよ好きな人ができたって。なんだよ。男のつまみ食いをするような女に気を許したつもりはない。だから殺してやるよ、お前の幻影も、俺の幻想も、全て。あの時のお前と俺はもういない。死んだ、殺した、俺が。だから、もう、いない。