見ていると気持ちがほんのり温かくなる女の子がいる。そう、それが彼女にはぴったりな言葉だった。リリー・エバンズの傍にいる女の子。エバンズの影になって決して目立ちはしないけれど、太陽と月のような、彼女らはそんな関係だった。けれども、月と言っても柔らかい乳白色の月明かり。僕が途方に暮れていると照らしだしてくれる。

そう思い始めたのは去年の秋ごろの話だ。つまらない天文学の授業はちっとも耳に入らなくって、月の満ち欠けを確認している時に僕はリーマスがそろそろ具合が悪くなる時期だ、とか思いながら。僕がぼーっとしてるもんだから、星図を書き込む手が止まっていて何を書いていたのかも思い出せなかったんだった。そしたら彼女が隣で「ペティグリュー、手が止まってるけど大丈夫?水星がへんてこなところにあるわよ」とクスクス笑いながら羽根ペンで僕の星図を指した。僕はたまらなく恥ずかしくなって「か、書き直すよっ」と上ずった声を出して星図を書き直しだした。

前からちょっと可愛いなって思ってた女の子。エバンズとは真逆のタイプで、小柄でくりっとした愛嬌のある瞳をしていた。でも驚くことにクィディッチの選手で、ジェームズと共にチェイサーを務めている。僕はどきどきとうるさく鳴る心臓を見て見ぬフリをする。彼女は何が楽しいのか、マイペースに鼻歌を歌いながら羽根ペンをカリカリと鳴らしていた。

なんとなく、なんとなくなんだ。ちょっと話しかけられて好きになるだなんてピーターらしいよなあ、とシリウスには言われそうだ。ジェームズやシリウスはいい。女の子は皆、あの二人に首ったけだから。リーマスだって根強いファンが多いって聞く。……僕は、皆の影だから。だから、余計彼女を見てると僕と同じ立場にいるんだなあってとても共感できるんだ。でも彼女はどうしてか、それを物ともせずにマイペースに過ごしているように見える。僕のように、苦にしているようには見えない。ジェームズや、シリウスはとても眩しい光だ。だから、二人の傍にいられて僕はすごく光栄だと思えたし、リーマスは本当に優しくて臆病な僕をいつも助けてくれていた。だから、途端に苦しくなるんだ。僕は何も出来ない、弱い人間だって。

アニメーガスになれたのは、自分でも頑張ったと思うけれど、やっぱり彼ら二人に比べれば一番変身を成功するのに遅かったわけだし。そう、時折苦しい。ものすごく、苦しい。けど、エバンズの隣にいる彼女はそんな顔を欠片も見せない。成績も、中の上辺りのレベルで、やはり秀才型のエバンズには及ばない。クィディッチも、ジェームズのように特別スポットライトがあたるわけじゃない。でも、一声かけられただけで、そんな風に彼女のこと、たくさん考えるようになってしまったんだ。

同時に、それが僕にとって恋に落ちるということだった。

だからね、僕は新しい扉を開きたくなったんだ。好奇心でいっぱいになったんだ。君が僕の隣で笑う姿を見てみたい。僕の冗談や、失敗で笑ってくれるだけでいい。天気の良い日に、気持ちいいねって言って微笑んで欲しい。僕を、見て欲しい。そう、だから僕は踏み出すんだ。

「ねえ、あのさ・・・」

太陽の光は強すぎるけど、君は僕と同じだから。包み込むようなそんな光が、僕は大好きだから。そんな君を、僕は好きになったから。隅で小さく縮こまっている弱いネズミなだけじゃいられない。勇猛果敢なグリフィンドールは、騎士道精神に溢れているはずだから。

そうして彼女は振り返る。

「どうしたの、ペティグリュー?」

たったひとつの、輝きを求めて。




輝きを求めて


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テーマ、「太陽と月」
'14.02.02 一花