「バーーーーーーーーーカッ!!!!!!!!!!」



俺はいわれのない中傷を受けている。 しかも、好きな女の子にだ。しかし、この好きな女の子というのが厄介千万極まりない。 なぜなら俺とはそんな甘い雰囲気になれるような仲ではなかったのだ。

「なんでだよ、俺なんもしてないだろ?」

「胸に手を当てて考えろバカッ!」

「バカはお前だろ、手を胸に当てろだろ…」

キーーーーーッ!!と金切り声らしきものをあげる彼女に生理前か?という言葉は慎んでおいた。 そんなことを言ったら石でも飛んできてもおかしくない。 バカはバカなところもあるんだが成績はなかなか良い方でこの前なんて呪文で出された小鳥に襲われた。 というか最近ずっとこんな調子で喧嘩している。なぜだ。俺には本当に身に覚えがない。

「シリウスの単細胞!あんぽんたん!単純バカーッ!!!!!」

「あのな、俺に何度もバカだの、単細胞っていうけど俺アメーバみたいに単細胞生物じゃないから」

「そういうところが単細胞って言ってんのよっ!!バカッ!!!!!シリウスなんてアメーバやバクテリアの塊だわよっ!!」

ギラッと睨まれる瞳に怖気づく俺。ああ、その可愛い顔でなぜ俺に憎らしく眼差しを向けるんだ……。真面目に身に覚えがない俺はこりごりという手で喚き散らす彼女の原因をジェームズに問いただすとした。ここ一週間何度も尋ねたのだが全くジェームズは我関せずな態度で俺をほったらかしにしていたのだ。

「あーーーこの前やっと犬の姿になれた君を披露しただろ。その時…」

とやっとヒントを与えてくれたかのように見せたジェームズだが言いよどんだ。

「その時なんだよっ?!」

「……君ほんとに覚えてないのかい?」

どうやら俺は何かしたようだ。犬の姿に変身した時の記憶はある。記憶があるに決まってる。 とりあえず走り回った。の驚いた顔が嬉しくてとにかく走り回った記憶はある。 だってアニメーガスじゃないか。自分の意識だって完璧に保っている自信はあった。それまでは。

「なんもしてねーじゃねーかよっ」

「ありゃー……そこまで言い切るとは、本当に覚えてないんだね」

「勿体つけてないで話せよっ」

ジェームズはいつもやるように、髪の毛をくしゃくしゃとする仕草をしてにやりと口角を上げた。

「犬になった君はさ…多分はしゃいじゃったと思うんだけどの口をぺろっとひとなめ」

「……くちを…ぺろっと…ひとなめ…」

なんじゃそら。俺はシリウス・ブラックらしからぬ顔をしていたと思う。というか白目を剥いた。マジか。それはまずい。それは非常にまずい。

「えっそれ本当なのか?!またエッジの効いたジョークじゃないよな、ハハハ……」

「………」

ジェームズの目は本気だ。そうか、俺は……。なんてバカなことをしてしまったのだ。いくらスマートでかっこいいシリウス・ブラックくんだとはいえまさかアニメーガスになった時の単細胞っぷりにはかなわなかった。そして彼女の言う単細胞という言葉は正しかった。アニメーガスになった時思考が単純になりやすいとは知ってはいたけれど、にキスもどきに口をひとなめなんて好意もバレバレな行動なんてもってのほかだ。

「あー……ジェームズ、俺はどうしたらいいと思う…?」

「そんなん考えたら分かるだろ、単細胞バカ」

それにしても俺はバカバカ言われ過ぎなのではないか。親友なのになんて扱いだ。俺にとって世知辛い世の中になったもんだ。 静かに本を読みながら聞き耳を立ててるであろうムーニーの方に助けを懇願するように顔を向ける。

「アメーバ以下」

チラリとも俺の方を見ないで毒を吐き捨てるリーマス。俺はアメーバ以下だと。 ワームテイルは最後の救いであったのか都合よくいなかった。これで俺の醜態を知るものはふたりとなった。 ……いや、よく考えればワームテイルもあの場にいたのであった。悪戯仕掛け人ととの会合だったもんな、どんまい俺よ。トホホ。

「だーっわっかんねーよーっ!!」

俺は髪を激しい苛立ちと焦燥感を覚えかきむしる。どうすればいいんだ。にキスしたってこと、覚えてない。 でも怒ってるアイツ。俺はどうしたらいいんだ?なんて謝ればいいんだ。ていうかなんで怒ってるんだ? キスされて嫌だったから怒ってるんじゃないのか?

「君はバカか」

俺はもうバカバカ言われすぎて本当にス二ベルス以下の脳みそに成り下がったと思う。 リーマスの突き刺さるような言葉に俺はまたもや衝撃を受けていた。

「君は人一倍バカだ。は君にキスされて怒るような子じゃないだろ?いつも傍にいるのにそんなこともわからないなんて…」

リーマスは俺に向けて憐れむような目さえもしている。うっ……俺は憐れむような存在にまでなってしまったというのか…。 ていうか全部声に出てたし、と一言添えるその辛辣さに俺のハートはもうすでにブロークンだ。しかし、そこではた、とおかしい部分に気づいた。

「ん…?はキスされたことに怒っていない…?」

ジェームズがそうだそうだ、いいぞいいぞとやじるので一発拳をお見舞いしながら考える。ストン、と納得がいった。

そうか、俺が覚えてないことに怒ってるのか……。ああ、なんだ簡単なことじゃないか。じゃあ、この俺が言えばいい言葉はただひとつ。

「わかった。ちょっくら俺行ってくるわ」

この関係、終止符を打つ時が来た。曖昧なとの関係好きだったけど、俺はもういっぱいいっぱいだったのかもしれない。 いや、でもアニメーガスになってる時に気持ちが溢れ出してしまったのは何ていうか俺らしい。 ジェームズはのんきにいってらっしゃい〜とニヤニヤ顔をやめないのでもう一発。 相変わらず本から目を逸らさなかったムーニーは俺を一瞥して微笑みながら幸運を、と一言添えてくれた。 ワームテイルには事後報告でオーケーだろう。



さぁ出発する時間だ。新しい関係を始めるために旅立とう、君のもとへ。 忍びの地図は使わない。自分の足と自分の心に気持ちを委ねて、君へたどり着きたいんだ。



だってこの俺が、こんなにも君を好きなのだから!