大人になったら、君も分かる。そんなのただの年寄りの世迷い言でしかない、とわたしは思う。シリウスはわたしのことをいつも子どもだ、子どもだって言ってからかう。年だって二つしか変らないのに、違うことなんて授業の内容しかないじゃない。それでもシリウスはわたしのことを子どもだって言うのをやめない。わたしはシリウスがこんなに大好きなのに。大好き、って勇気を振り絞って伝えたのに大人になったら付き合ってやるよ、だって。何が大人なの?どうしたら大人になれるの?わたしはそんな疑問を背負って今日まで過ごしてきた。からだはおとな。こころはこども?やっぱり答えは見つからない。

あなたに向けてるわたしの眼差しはいつまでも純粋で、好きで溢れていて。好きで好きで好きすぎて瞳があなたの光で焼き焦げてしまうかと思ったほどだ。それでもあなたは大人になったら、だなんて意地悪を言う。わたしは大人になったらこんな風にシリウスを好きになれないかもしれない。そんな不安を抱えたわたしはやっぱり子どもなのかな。

それからしばらくして、シリウスは先に卒業しちゃって。わたしはまた卒業の日に大好きだよって伝えたら、子ども扱いしていた今までとはちょっと違う言葉が返ってきた。

「卒業しても、大好きだからね」

「うん、分かってる。俺もお前の事忘れないよ」

「……わたしは忘れないんじゃなくて今、好きなの。大好きなの。過去の話なんかじゃない」

「大人になったら……な」

「また大人になったらって言う!大人、大人、大人って何?!」

わたしがいつもは見せないほど憤慨している様子を見せると、シリウスはわたしが次の言葉を発しようとした唇を、彼の唇でそっと塞いだ。彼はわたしにキスをしたのだ。そのことを把握するにはあまりにも一瞬のできごとで、わたしはただただ突っ立って呆然としながら彼の次の言葉を待つだけだった。

「結婚……しような。お前がおとなになったら。待ってるから」

彼はそう言い残し、わたしの頭を優しく撫でるいつも見てた大好きな笑顔を向けていなくなってしまった。





大人になったら。

大人になったらシリウスと結婚。わたしが、おとなになったら。でも、わたしはいつ大人になれるの?ホグワーツを卒業したら?じゃぁ、その時までわたしはちゃんとシリウスのことを忘れずに……いや、忘れることなんてない。きっと好きでいよう。その時までずっと愛していよう。



でもわたしが大人になった時。世界はくすんだ色に染まっていて、わたしはあなたと過ごした色鮮やかな時はどこかに置いてきてしまった。わたしが大人になってから、あなたは暗い海にぐるりと囲まれた独房の中にいて、わたしは永遠にあの時に誓った永遠の愛を失ってしまった。ねぇ、大人になったら。大人になれたら。分かったことは、この世の中がどんなに非情で残酷な世界なんだということだけだよ、シリウス。ねぇ、シリウス。大人になるってこういうことだったのかなぁ。



ねぇ、シリウス。わたしの心が眩しいあなたの笑顔を忘れないうちに答えて。どうか、どうかお願いよ。