女は汚らしい、の一言で他の女等を呼称した。鋭利な視線で相手を凍てつかせてはその魅惑的な唇の角を上げては目当ての男を吊り上げる。男、と言えどそれはたった一人の男のためが故。愛した男、シリウス・ブラックは彼の意思の尊重とは何の関係もなく数多の人々に愛された。女は嫉妬した。いつも隣で笑うのは自分だ、と主張して止まなかった。彼女の美貌と嫉妬心はお互い競う合うように計り知れない。彼女自身もまた、美しいのだ。嫉妬が燃えたあかつきにはその矛先はシリウスを愛す女共に向けられる。彼女を愛と代償するならばそれは決して美しくなくどろどろと禍々しく恐ろしい物である。確かにそこには愛はあった。彼女がシリウスを愛する気持ちは本物だった。シリウスもまた彼女を愛した。そしてそれはどこも疑いのない清らかな愛であった。しかし彼女はシリウスを愛する反面おぞましい顔を持つ。嫉妬心にかられ、幾人もの女を踏み台にしては乗り越える。シリウスは知らない。彼女、が自分に好意を持つ女等を消してきたことを。愛した人が人らしからぬ非情な愛を抱いている人であるということを。





「シリウス、私達もとうとう結婚するのね。」


「ああ、の花嫁姿、楽しみにしてる。」


「やだ、シリウスのタキシード姿の方が何倍もかっこいいわよ。」





幸せそうに話2人はどこから見ても幸せそうであった。白い女は見た。2人が仲睦まじそうに肩を寄り添い合っているのを。白い女は見た。シリウスがの髪を愛しそうに口付けを落としているのを。白い女は凄んだ。誰も見ていない扉の間からそうっと、いつしか彼女にくれられた鋭い眼差しに憎しみを加えて。白い女は情事が進むまでそれを止めることはなかった。シリウスがを愛すれば愛する分だけ恨みは増す、憎悪は増す。髪を垂らした白い女は情事が成し終えた翌の朝に白い光にさざなみのように波打たれて、音を立てることなく、消えつつ。想いは残す。



は幸せそうに紅く扉の奥まで続く絨毯を幸せそうに足取る。白く、しかし華美な絹の衣に包まれてはこの世のどんな幸福よりも甘美な表情を浮かべてはその夢のような甘い響きにうっとりと目を輝かせる。自分の顔に被された布を透かして見る風景は天国よりも遥かに美しい景色であった。ベールが邪魔して花嫁付添い人がはっきりとどんな表情をしてるかは分からなかったがおそらく同様に嬉々に似た顔をしていることは確かであろうと疑わない。白い扉はまもなく開かれた。金色の装飾が施された豪勢な白い扉は貫禄を込めた重い響きを辺りに聞かす。コツ、と白いヒールを踏み出す。眼を閉じ辺りを覆う高揚とした空気を吸う。眼を開ければ        そこは白い部屋。どこまでもどこまでも白の部屋。白い大理石で出来た広い部屋はどこまでも果てしなく白かった。振り返れば付添い人も誰もおらず、白い扉は知らずの内に閉まっていた。一瞬の焦りが脳裏を過ぎる。重い扉を開こうと躍起になるがどうにも開かない。恐る恐る後ろを振り返るとそこはやはり白い部屋であった。しかし足場は白くない。茨がどこから生えているのか分からないがその棘を覗かせている。白い部屋に蔓延るようにそれは地面を覆っていた。あまりの茨の多さにヒールから覗く素足が棘で傷がつく。いつしか血も出た。跪くことも許されず歩けども歩けども、白い部屋は続く。思いウェディングドレスを引きずり息を切らして歩く。しかし歩けども歩けどもそこは白い部屋。そこはただの白い部屋。しかしそこにぽつんとあるものが佇んでいた。白い女はを見つめていた。ずうっと歩き続ける彼女を見つめる。白い女は長い髪を茨に絡ませてはその場に立ち続けた。





「あなたは・・・・・・?」





息絶え絶えながらもは白い女に話しかける。白い女はが目の前に来るまで口角を上げたままぴくりともしない。が手を伸ばし、彼女に助けを請おうとしたその時。ガクンと膝が折れる。茨がどんどん増えていっては白い女がどんどん遠ざかっていった。自分は、落ちているのだ。無限の長く白く続く部屋に落ちているのだ、と。シリウス、シリウス、とは呟く。しかし白い女は助けもしない。彼女は口角を絶えず上げているだけ。やがて何か光るものが見えた。それは白い女が溶けた光りに似ている。やっと、やっと助かる、とは思い救われた。その時上を見上げた。白い女はにいっといつも以上に不気味に笑む。


白い、女が見える。シリウス、がいる。白い女とシリウスは嬉々とした顔で笑い合う。白い女、なんか知らない。そこは私がいるべきところ。白い女がこの上ない幸せそうな顔をして綺麗なドレスを纏っている。そのドレスは今私が着ているもの。シリウスが白い女と付き添っている。その腕に腕を絡ませていいのは私、だけ。光りはどんどんを飲み込んでゆく。どんどん、どんどん。さざなみが止まる。白い部屋は終わった。ざくりと、茨に滴る血だけがぽた、と虚しく白い床に落ちる、落ちてゆく。