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目を瞑ると小さな黒い点がじわじわと広がって、大きな闇がわたしを支配してた。全てが真っ暗になったこの世に残るのはわたし自身、だけ。何か得たいの知れない浮遊感が体を襲い、どこかに自分が流されてる気がしてた。ふわふわとその流れに乗るわたしはその時走馬灯かのように思いでがきらきらと脳内を駆け巡る。

一番に思い出したのはわたしの恋しい人、シリウス。あれ、最後に会ったのはいつだっけ。ううん、最後に会ったのがシリウスなんだ。わたしが最後に目をしたのがシリウスなんだ。なんでそうなったんだっけ。

リリー?そうだ、リリー。次に思い出したのはリリーで彼女に会ったのはもう十何年も昔。ジェームズもそうだったかな。幸せそうな夫婦だった。わたしが羨ましくなるほど仲が良くって。でも、それをリリーに零したら何言ってるのよって怒られたっけ。あぁ、わたしとシリウスも夫婦だったんだわ、そうだ。

どんどん、どんどん記憶が回る、回る。まるで記憶がワルツを踊っているかのよう。わたしは広がる闇に目を伏せ、ありし日の情景を瞼の裏に浮かべる。

そう、リーマスにピーター。ピーターはもう随分会ってない。きっとリリーとジェームズくらい。あれ、ピーターはどうしたんだっけ。何か事情があって会えなかったのかな。リーマスはついさっき見たんだよね、うん覚えてる。でも、笑ってなかった気がする。どうしてだろう。あれ、シリウスも笑ってはなかったんじゃないかな。

くるくると回る時空がわたしの中をせめぎあう。それは春に流れる小川のように、ゆるりとさらさらと。古い記憶ばかりが蘇る。新しい記憶はまだ山頂のあたりなのか、下流のわたしの脳にはまだ届いていない。揺らめく記憶の彼方に待ち受けてるものは何だろう。わたしは手探りで暗闇に浮かぶその小川に手を浸すと何かが冷たく指先に触れた。

それをすくいあげた時にそれはぽんとはじける。わたしの記憶にスパイスを利かせたかのように鮮明にそれは蘇った。


「シリウス!」


、来るな!」


わたしはシリウスに向けられたその閃光を遮るかのように彼の前へと飛び出た。その証にわたしは胸へと閃光をくらい、その時のベラトリクスの顔と言ったら悔しさに歪んでいて、わたしは思わずしてやったりと思うほどだった。そんな余裕を胸にわたしは呪いを受けてしまったのだけれど、その後はどうしたっけ。リーマスはわたしの名前を大声で叫んでたのも分かる。ジェームズに酷似してるわたし達のハリーも、わたしの名前とシリウスの名前を絶叫していた。

そうだ、シリウス。彼は       わたしの身を受け止めて……ベールの向こう側に。わたしはそのままこの闇へ。そう、これがわたしの『死』というもの。今それをわたしは実感する。でもそうなれば彼はどうしたんだろう。彼は同じ死に至ったはず。

わたしはしばらく考えてその小川へと再び手を差し込む。するするとわたしの記憶にそれが流れ込むと、わたしはあぁと溜息を漏らす。彼は同じ死に至ったわけではない。でも、彼はベールの向こう側へと往ってしまった。そう、それが運命の分かれ目。生きるという世界は同じ物でもわたし達は最終的には二度と巡りあえない世界へと渡ってしまったのだ。

浮遊感がなくなった時にわたしはその記憶の小川へと足を着ける。するとひんやりと触れるそれはわたしの中を競い合うかのように染み渡る。そんなとき、一瞬だけ。

小川に映った彼の哀しげな顔が見えた気がした。わたしはほっと一息つくと彼の映った顔に手を差し伸べた。すると彼は嬉しそうに口角を持ち上げそして霞のように消えてしまった。
わたしは折り曲げた膝を伸ばし、ゆっくりと顔を上げる。そして小さな雫が頬に伝うのを感じた。


あぁ、もうわたし達が今の形で出会う事は二度とないんだね、シリウス。でも、一つだけ。一つだけ望みを持ってもいいかしら。最後にあなたに餞の言葉を捧げても誰も咎めはしないかしら。



(では、また来世で)