いい、風だ。 陽を含んだ空気をめいいっぱい吸って、この世にいることを実感する。 いい、天気だなぁ。 らんらんと光るガラス窓が光りを反射して、なんだか万華鏡のような虹色に見える。 古木で出来たテーブルも、陽を浴びるだけで特別に調達したものに見える。 あぁ、世界はこんなにもキレイだ。 さらさらとした彼の髪がそよいだ。 わたしと、この世界に存分に浸っている。 彼の横顔も、また春の色に溶け込んで鮮やかな情熱の色彩を、いつもより鮮明に滾らしている。 いつもだったら、捻くれて物事を考えてしまうわたしも今日のような春の日和にはそれさえも緩慢になってしまう。 おっとり、だなんて言葉がぴったりな今の気分 窓の際に、肩肘立てているシリウス。 陽が眩しいのか、目を細めて外の世界を眺めている。 それはそれは、普段と似つかないほど優しい瞳。 静かな会話が、呼吸音だけで交わされる。 体制を少し変えただけで、ギィ、とイスの軋む音が吸い込まれるように消えていった。 ふと、暖かいものが首からぶら下がる。わたしの首を巻いて、それは優しく包んだ。熱い、温度。 シリウスは情熱そのものだ、と思った。 「」 彼の声がわたしの名前を呼ぶと心がさんざめく。いつもは尖った、耳障りな声だなんて思ってしまう。だけど今日は何故か違う気がした。今日は、世界がキレイ。 「好きなんだけど。」 春一番、ではないけれど強い風がわたしの心を攫う。からからと回るオルゴールの木馬も、こちこち動く時計の秒針も、風に誘われて震える読みかけの本の頁も。きっと、あなたに攫われている。情熱という、あなたの色に。 「好きなのかも。」 色が笑う。それはあまりにも、儚くてめまぐるしい毎日を生きるいつものわたしたちには見えない。でも今日は違うんだ。世界が違うんだ。ううん、世界は違わない。同じ世界でも、同じ色の日なんてない。今日はたまたま、ローズピンクなわたしとワインレッドなあなたの色合いがこの陽の色に惑わされてしまったんだ。明日はもしかしたらネイビーなわたしと、ベージュなあなたは喧嘩をするかもしれないけどたまにはこんな日があってもいいね、シリウス。首筋に顔を埋めて小さなキスを落としたあなたは、虹色の彼方。 |
080513 柚子