四角く切られた爪。ゴツゴツしてるわけじゃないけど、少し節が太くてわたしはそこを指の腹でさするのが好きだった。小さいわたしの手と、シリウスの手を合わせてぎゅっと握る。そんな些細な行為が幸せで満ち溢れている。でもそこまでいいのに、「ずっと一緒だろ」ってシリウスはお決まりのごとく口にする。ずっと一緒、だよ。そうわたしも返したいけど、縋るようなシリウスの視線にわたしはなぜか哀しくなる。ずっと、ってなんなんだろう。今の今が永遠に、一本の水平線のように繋がってることを言うのかな。でも今日のわたしはシリウスが好きで、そんな風に切なげに見つめてくる瞳も愛しくて、でもきっと明日は同じ気持ちになることなんて、ない。喧嘩してちょっぴり嫌いになることもある。わたしといるのにジェームズとばっかり楽しそうに喋ってて置いてきぼりをくらって淋しく感じることもある。それでもわたしの愛しいは水平線みたいに一本、続くのだろうか。不確かな明日をわたしたちは歩んでるだけで、ずっと一緒にいるよ、なんて言い返すのは薄っぺらい誓いではないのかとわたしは時折思う。こうやってシリウスと授業をサボって忍び込んだ男子寮、まどろみながらシリウスとベッドに横たわるこのひと時が永遠に続けば、わたしはどんなに幸せなんだろう。でもそんな幸せないってペシミストなわたしはどうしても思ってしまう。

「何考えてんだよ、?」
「なーんにも」
「眉間に皺寄せてなーんにも、はないだろ」

鼻をつままれて、微笑をたたえるシリウス。んー、んー、とわたしが苦しそうなフリをして声を上げると少年のようにシリウスは笑い声をあげる。ベッドのシーツを引き上げて皺ができそうなほどぎゅっと掴んだ。シーツの素肌に触れていなかった部分はまだ冷たくて、ひんやり気持ちいい。わたしがこうやってぐるぐる考え事をしている時シリウスはじっとわたしを細部に至るまで観察している。耳の産毛をほわほわと触られたり、背中にある黒子を数えたりとまるでわたしを美術品かのように鑑定している。そのあいだにわたしがこうやって永遠とは何か、とか考えてるなんてシリウスは夢にもみないだろうな。ロマンチストなシリウスの夢を壊したくなくて、シリウスが永遠を求める度にわたしはブルーになっていく。不安定なこの時代の中で、わたし達は果たして永遠に一緒にいられるのだろうか。

?」

黙りこくっているわたしの顔をシリウスは覗きこむ。グレーの澄んだ瞳は魔力を秘めているかのよう。鼻先と鼻先が触れてキスの間合いになった。唇と唇は自然に重なりシリウスはなぜかいつもより強引に唇を求める。わたしの気持ちがこのキスで流れこんでしまったら、シリウスは一体どんな顔をするんだろう。わたしがこんな風にたくさんのことを憂いてることをシリウスは悲しむだろう。キスするのに夢中になってるフリをして背中に腕を回す。爪を立てるほど酔ってる自分を演出して、愛してるって、伝えたい。でも線を引いて後ろから見てるわたしにはシリウスのように真っ直ぐにはできない。そうやって哀しみにわたしは満ちていく。静かに、ゆっくりと。それは誰のせいでもない、イノセント・ブルー。