「ぎゃはは!!うわ、まじこれ傑作だわ。」


「うっさい、黙れこの減らず口が!!」


「あーこらもう最高だわ。酒の肴に出来んわ。」


「親父くさいんだよ、こんちきしょー!!!」


この目の前の未成年のシリウスくんはあたしの髪の毛がおかしいといいます。こいつはキレイな顔して中のモノはとんでもなくどろどろにねばっこくて黒い奴だったりします。なぜならばこいつが仕掛けた悪戯によってあたしの髪の毛はただいまもっふもふのわっふわふのモルモットが隠れていても分からないようなアフロヘアーであったりするのです。なぜだかシリウスくんはあたしのすることなすことケチつけたり毎日のように悪戯を仕掛けてきます。

先週はあたしだけに対するスカートめくりの常習犯になって尽くパンツの批評をされたり、リーマスへの誕生日プレゼントとして一生懸命編んだ模様が入り組んだマフラーの編み目を全部解かれたり、ピーターと必死で取り組んで一夜まるまる使ったレポートにインクを瓶ごと零したり、ジェームズと食べようとしていたビスケットをビスケット味のネズミに変えてしまったり、リリーと図書室で読書をしていると急にあたしの頭上に現れてあたしが上を向いた瞬間本を落としてきたりします。

シリウスくんは一体何がしたいんでしょうか。それをあたしは愚かな事にシリウスくんに直接聞いてみました。そしたらシリウスくんはこんな風に答えたのです。


がそこにいるからだろーが、あったりまえだろ。」


だそうです。自他とも認めるちょっと回転の切れ味が悪いあたしの頭ではよく分かりませんでした。あたしがここにいるから何でシリウスくんに虐められなきゃならないんだ?と延々とあたしの脳内細胞はぐるぐるぐるぐると回り続けます。それでもシリウスくんが何であたしのことを虐めるのかが分かりません。

あたしの自慢の大親友、リリーがあたしといる時は一度図書館の件でしょっぴ抜かれてからはシリウスくんは手出しできません。だから多くの場合はあたしはリリーといるわけです。でもリリーはあたしといつまでも一緒にいられるような暇人なわけではなくて彼女には立派な監督生という職務があるわけです、これが。生憎シリウスくんがあたしを虐めている時に水を差してくれるリーマスも監督生なんですよ、なんてこった。というわけで、もうこりゃ誰もシリウスくんの歯止めはいないわけで、そんなわけで。

ピーターはシリウスくんの凄んだ顔はおっとろしくて物も言えなくなります。あたしもそんな縮み上がったピーターに助けを求めるほど非情な人ではないつもりなので何も言えません。肝心なシリウスくんの親友のジェームズはそれを黙ってニヤつきながら眺めています、この野郎。というわけで誰もあたしを彼の毒牙から救ってくれる人はいないんですな、とほほ・・・。


でもある時シリウスが本気であたしを怒らせてしまいました。リリーからもらったそれはそれは綺麗なマグル製のきらきらとした砂時計を割ってしまったのです。誤ってなのかそれとも嫌がらせなのかは分かりませんでしたがいくらそれがレパロの一言で直るにしてもあたしはそれが許せませんでした。


その日を境にシリウスくんとは口を聞いてません。そうですねぇ、かれこれもう1週間ちょっとでしょうか。シリウスくんも丁度これぐらいが今までの悪戯などの潮時だろうと思ってあたしは何にも話そうとはしませんでした。シリウスくんの方は何か言いたげそうな顔を何度もしていましたがその度にあたしがかっこよくスルーしていくのでシリウスくんも口を噤みもうそんな風な顔はしなくなりました。


丁度1週と2つ日目の仲違いの日を迎えた頃、何だかとてつもなく寂しさというものに襲われました。何故だか知りませんがシリウスくんに構えなくなってすっごく今の自分に違和感を覚えたのです。そりゃぁ、初めの頃はせいせいとしていました。シリウスくんの隣を通るたんびに全ての神経を研ぎ澄まさなくてもいいわけですし、毎日夕飯のおかずを取られる心配をしなくてもいいのです。でもシリウスくんが
あたしを構う以外は普段のように生活しているのにあたしはちょっとしょげていたわけです。


けれどそんな時に転機は急に訪れました。シリウスくんの大親友ジェームズがあたしの所に出向かってきて渋い顔をしながらこう告げてくれました。


「シリウスのヤツ、あれで参っちゃってるんだよね。ほら、好きな子ほど虐めたくなるって言うだろう?アイツは16にしてまだガキだからさぁもちょっと分かってやってよ。」


そんな事言われたらもう頬が緩むしかありません。栓が抜かれた瓶のようにどくどくどくどく流れ行くものがあります。それがにやけた顔だというのは何だか情けないですがそんな事を聞いてしまったあかつきにはもうシリウスくんの耳が垂れ下がっているようにしか思えません。どうしたんでしょう、この気持ち。何でしょう、この気持ち。心臓から流れ出る血が踊り狂っているようです。たださえ回転のキレが悪い脳細胞もどこか詰まってしまったように更に回転速度を落としてゆきます。本当に、一体どうしたんでしょう。


あたしも寂しさに飽き飽きしていた所なので仕様がないのでシリウスくんに話しかけてやりました。するとシリウスくんは珍しくも照れているようで不覚にもそのはにかんだ顔が少し素敵だなんて思ってしまいました。やっぱり顔はいいヤツはこういう所で得するもんなんですかなぁ。


シリウスくんと仲直りした後、気持ちよい春野そよ風に吹かれながらあたしは以前尋ねたことがある質問を再び問いました。


「ねぇなんであたしを虐めるの?シリウスにとってあたしはなぁに?」


そしたらシリウスくんは頬を赤く染めてあたしの目を見ずに夕日だけを見つめています。あたしはただただ答えだけを待ちました。風にそよいでいるシリウスくんのさらさらな黒髪はとても美しいと思いながらです。


シリウスくんが急にこちらを振り向いたと思うと、それはほんの一瞬であたしには何が起こったか分かりませんでした。急すぎて目がちかちかするほど、そして全身の血がどっと一気に溢れだしそうな程体は風にさらせれながらも熱ります。唇に柔らかいシリウスくんの唇が当たって何も言えない状態です。目を大きく見開くとシリウスくんはあたしの唇をぺろりとたいらげてしまうように舐めました。あたしはただただ目をばっかみたいに見開いてシリウスくんがした事に未だ信じられないという形相です。


するとシリウスくんは満足そうな顔を浮かべました。あたしはこの時何だかとてつもなく幸せな気分になりました。世界の全てがあたしとシリウスくん中心に回っている気がして世界は何とも言えない極菜色に染め上がったのです。


「俺の恋人さんかなぁ?」


「まだ好きって聞いてないもん。」


あたしが少し拗ねて頬を膨らますとシリウスは寝転んでいた体を起こし一気に立ち上がります。


「好き好き好き好きが好き、だーいすきだっ!!」


これならいいだろ?とあたしに振り返ってシリウスはその悪戯っぽい顔であたしに笑って見せます。その時あたしはシリウスくんがこんな悪戯をするなら構わないとでさえ思ってしまったのです。こんな可愛らしい悪戯は生涯で一度だけですよ?このもやもやとした不満とシリウスくんに対するどきどきは結局シリウスくんによって仕掛けられた大層な悪戯だったのです。全くもう、と文句を言ってやりたいところですが今日は見逃しましょう。明日になったら彼はどんな悪戯を仕掛けてくれるのでしょうか?とリリーにこれを満面の笑みで伝えたら心底呆れたような顔をして挨拶もせず寝入ってしまいました。まぁなんて薄情者なのでしょう。というわけであたしとシリウスとの奮闘はまだまだ続きそうな予感がします。










(ギャーーーッ!!誰、あたしの荷物にブラック夫人って書きまくったの!!どこのドイツ人じゃ出て来ーいッ!!!!!)




終わる予感がしません。




chaton noir