情け、なのかもしれない。今、付き合っている子がいる。の親友、。なぜ彼女を紹介する時に別の子の名前が出てくるのか、というとそれは少しばかり自分勝手な理由からだ。


彼女は風に靡く煌びやかなブロンドの髪、潤いを湛えたビー玉色の瞳を持つ。美しい、とは思う。愛しい、とは思わない。否思えないのか。しかし美人なのにそれを鼻にかけるような態度は全く見せないし、その上面倒見が良い。周りからも好かれていて人望が厚い。そんな彼女、の友達。


それに比べて肝心のは東洋人特有の真っ黒な髪に真っ黒な瞳。白い肌が闇夜の導の淡い月明かりを思わせる。小柄な躰は愛らしい、そう『愛しい』。がそんな可愛らしい顔でいじらしく彼女の親友を応援していたものだからそれに逆らえない俺はまんまとの告白を受け付けてしまったわけだ。        ・・・・・・本当に好きでもないのに。


今、はムーニーととてもいい感じだ。というようなことを巷の噂で聞く。確かにあいつらはよく2人でいるし、図書館に一緒に通ったりもしている。ムーニーも満更でなさそうなようだ。はどう思っているかは知らないがあれは成り行きにまかせておけばいつか付き合い始めるんだろう。成り行きにまかせれば。


が愛しい。だからムーニーには絶対渡したくない、当たり前だ。けれどそんなことをこんな状況になってもまだ思っている俺はつくづく情けないと自分でも分かっている。でも好きっていう気持ちは理屈じゃないと誰かがそんなことを言っていたような気もする。といってまた自分を甘やかし現実から目を逸らしていく。堂々巡りのこの気持ち。


これをジェームズに言えば笑われるんじゃないかと思うが俺はとキスも手を繋ぎさえもしていない。本当に好きでもない子にわざわざ触れようなんて思わない。は好きだ。でも、それは特別な好きじゃない。のように長いローブにつまずいて顔面から床に衝突するようなことはしないし、魔法薬学のレポートを白紙で出して減点された上に罰掃除をくらうなんて事もないし、まぁ至って彼女は完璧な子なのかもしれない。でも、それじゃぁダメなんだ。俺にとっちゃそんな子は魅力的に感じられない。


じゃぁと別れてにこの想いを伝えればいい、と思うだろうが世間はそんなに甘くない。俺だって傷つきやすいんだ。この心は何より脆いんだなんて女々しいことは言わないが誰だって失恋には痛手を負うだろう?俺は怖い。に俺はどう見られているのか知るのが。友達以上?恋人未満?否、恋人なんてもってのほか、友達とさえも見られてないなんてことになったらどうなるだろう。立ち直れない、気さえする。でもこの気持ち、どうしたらいい?『愛』は『好き』に変えられない。もう俺は手遅れなんだ、俺はもうを愛してしまっているんだ。


冬の雪が溶けた後の春への変り時は空気が乾いてひんやりと伝わる温度が気持ちよい。風に誘われる笑い声は耳をくすぐる。陽が芝生の上に降り注ぎ青々と茂る芽を吹き出し始めた花たちはまるで踊りだすように華やいでいる。そんな美しい絵画のような風景にとリーマスは木陰にあるベンチに腰掛け楽しそうにふたり、話している。西風が一層冷たく頬に当たる。俺の隣でが西に傾きかけている太陽に手を透かしては笑顔で俺に笑いかける。なんでもない風景が、とても辛い。とても、苦しい。


が愛しい恋しい、ムーニーが憎い、羨ましい。愛せないこの情景。止まずに吹く風が余計に息を詰まらせる。和やかな空気に一人緊張の糸を張る。どくん、どくん。これまで正常に抑えきれてきたものが今は制御できていない。何気ない日常に俺はいい加減苛立ってきた。5年間繰り返され続けてきた現状に絶えられない。黒い色をしたこの感情がせき切るように溢れ出しそうだ。


突如俺はこの定位置から飛ぶように立つ。はその俺の行動に驚いたようでびくりと体を震わして俺に問いかけたが俺はそれを無視しここからあの木陰へとずんずんと向かっていった。は何か声を張り上げていたが耳には入らない。一直線に向かうそれは何か俺の中で溢れる物が俺を後押しする。止める術がない。ムーニーもも俺に気がついたようでにこやかに声かけたがそれさえもただの皮肉と俺に対する嫌がらせの類にしか見えなくて        気がつけば、の肩を掴みアネモネ色の唇に俺のを強く押し付けた。




の手を引きどこまでもどこまでも突き進んで行く俺。は喚く。喚いて喚いて泣いて泣いて。喚き死ねばいい。どろどろと俺を渦巻くものはどんどんこの体を飲み込んでいく。俺のために泣いてその涙を流して枯れ果ててしまえばいい。それは俺の為なのだから。一方ムーニーは追ってくる気配もない。その程度だからお前にはやれないんだ。俺の方が何倍も何百倍もを愛している。だから、だから        




俺の名をしきりに叫ぶ。茫然とその場に立ち尽くすムーニー。泣きじゃくる。もうどうにでもなってしまえ。何もかも、どうでもいい。へばったを抱え地下牢へと辿り着くと彼女をある一室へと放る。誰も知らない薄暗い気味の悪い部屋。腐った魔法薬やトロールの片腕、ミイラの肖像画や亡者の絵画。しとしとと泣くは美しい。そこに閉じ込めてしまおう。俺のためだけにいつでも泣いていればいい。そして俺だけを愛してしまえばいい。


全てをメチャクチャにぶっ壊したっていい。親友が俺を酷く妬んだっていい。



どうせ俺は君しか愛せない。
Even now, I just only can love you.




(いつもと変らない風景でムーニーと笑いあうを見たらそんな美しい夢を、抱いてしまう。)



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