「どうでもいいのよ」


吐き捨てた言葉は残酷だったかもしれない、特に純な彼にとっては。シリウス・ブラック。下級生の中でも最も愛らしい顔をしてて地位も名声も全て一年間で手に入れた子。でも本当にどうしても欲しいものは手に入らない、そうあたしが教えてあげるの。


「浮気したってなんだっていいわ、シリウスの好きにすればいい」


そう言うとあの子は決まってわたしに縋るような顔をする。今まで彼のオトモダチと遊んでいたのか服の箇所にドロや埃を被らせてる。お子さま、ねぇ。


さんと俺、付き合ってるんじゃなかったけ」

「そうよ?でも『付き合う』にも形、いろいろあるじゃない」


マニキュアを塗り終えた爪にふぅと、息を吹きかける。そんな仕草ひとつに、ごくりと生唾を飲み込むあなた。初心なあなたを介抱するだなんて、今のあたしにはお子さまのお守をさせられているよう。おかしくておかしくて、喉が鳴る。


「シリウス、いらっしゃい」


一声かければ、シリウスはあたしの言うがままにあたしの元へ来る。ソファに横になっているあたしの傍に寄り添って。潤んだ瞳が可愛らしいこと。食べちゃいたい、だなんてこういうことを言うのかしら。


「あたしのこと、好きなの?」
「だからそうだって、言ってるだろ」
「駄目よ、シリウス」


そんな言い方しちゃ。耳元でそう、囁いてあげると彼の背筋がゾクゾクするのが分かる。この子もとんだ毒牙にかかってしまったのねぇ。かわいそうな、子。女なんてこの世に捨てるほどいるのに、あたしだけに惑わされてるいたいけな子。あたしはシリウスの後頭部に手を回して爪を立てて掴む。うっと苦い顔をするけど、そんなものは気にしない。髪を掴んで体を起こして頬を寄せる。噛み付くようにねっとりとした口付けをする。舌を挿し込んで彼の舌に絡ませた。歯列をなぞわせる。彼はその行為に驚いたのか、びくりと体を震わせた。けれど負けじとあたしの舌に自分のを絡ませてきて、ぎこちない動作で深いキスをする。


「ん・・・・・・」


慣れないのか、長いキスにシリウスは声を漏らす。名残り惜しむように糸を引かせて、離れていくと彼は切なそうに目を開いた。肩で息をして喘いでいる、幼子。ぺろり、と糸を舐め取り彼の頬に垂れた唾液を舌で舐めると頬を赤らませた。シリウスは身を乗り出して、あたしに馬乗りする。あたしはそんな彼に解けない糸を絡ませるように、そうっと腕を首に回した。


「駄目な子ね、シリウス」


シリウスはそのまま獣のようにあたしに沈んでいった。陽は、紅。お天道さまに見せられたもんじゃないわ、こんなイケナイこと。駄目なおとこね、シリウス。そう呟く。子供扱いしていたあたしが彼のことをおとこと敬称するのにシリウスは目を配らせたが、すぐにおぼつかない手つきに集中する。ほんとうに、駄目ねぇ。男なんて捨てるほどいるのに、ひとりぽっちのために教えを請われて構ってるあたしはなんて駄目なおんな。