うつくしゐ髪をしてゐた。細やかな指をしてゐた。観る者を闇に染めてしまう程に。尖れた爪は紅く燃ゑたぎるよう首に手をかける。それはそれはもう、愛しそうに。愛してる、愛してると女は呟きひた、ひたと体温をその首に与えてゐく。しりうすとゐう男はそれを喜んだ。それはそれはとても、喜んだ。突きつけられた細きなる指に添ゑられた枝はしりうすとゐう男の興をかきたてた。女の紅が朱の三日月のように艶麗に弧を描く。しりうすなる男は笑った。汝は問う。君に殺されるのならば本望だと、言う。女は嘲笑った。枝を一層強く汝の背に突きつけ更なる残酷とゐゑよう視線を投げかける。欠けた月が影をつくる。汝らの姿は造形品のようにうつくしゐ。煌々としたかつての街は今破屋のように気味が、悪ゐ。女は答ゑる。わたくしの手であなたを殺せるなら、と。淡い月夜に透き通る青の光りが生まれる。女と男をも包むそれは時代の儚さと盛衰を示してゐるかのよう。しりうすは笑ゐ、女もまた笑った。女は笑ゐながらもう二度と感情を持てない身体を抱く。本望よ、と先ほどの答ゑの続きを呟く女の瞳には月光が女の瞳だけを照らしたかのように、雫が浮かぶ。ぽろり、ぽろりと。
夢葬