May you eat the poisoned apple. (Sirius Black)

又従兄弟のスペイン人の血が混ざっているは黒真珠を思わせるような瞳を伏せて、同じ色の長く美しい髪をかきあげるのが癖だ。その仕草はどの老若男女問わず魅了し、俺も彼女がその緩慢にその動作をすると時が流れるのも忘れて見つめてしまう。マグルの悲劇の王妃、マリー・アントワネットを讃えるは、彼女自身がマリー・アントワネットの陶器のような滑らかな肌を持ち、そして名声を持っていった。それは悲劇の王妃のような陳腐なものではなく栄枯盛衰のない確かなもの。しかしそんなものは俺からしたらどうでもいいものだ。なぜならあいつは俺によく、似ている。

「あーもうやんなるわ、叔母様ったら口を開けば純血純血って」
「お前だって食事の時にそれに深く頷いてるじゃん」
「私はシリウスのように事を荒立てるのがキライなのよ。おかげでホグワーツでも優等生で通してるんだから」
「ふーん」

俺は興味無さそうにテーブルにかけている足を組み変えると、はそれが気に入らない、とでも言うように俺から目線を逸らした。しかしの視線の先には白銀の世界、つまり雪が窓を覆っていて辺りの様子など分からない。側が座るソファーが軋んだ。

「いっそ全てめちゃくちゃにしてやりたいわ」
「ほーお、優等生のさんが?」
「いいの。その時私はここからいなくなればいいだけの話なんだから。ねぇ、シリウスも一緒に、めちゃくちゃにしない?」
「全てを?」
「そう、全てを」

破天荒な考えを持つは口に毒を含んだように卑しく笑った。俺に寄りかかってくるとその強く握れば折ってしまいそうな腰を咄嗟に支える。黒い髪が、俺の頬を掠めた。

「そんなことしたらが泣くんじゃないのか?」
「あら、いいのよあの子はレギュラスがいるもの。」
「どうせ政略結婚だろ」
「あらシリウス、あなたも案外鈍臭いのねぇあの子はレギュラスととっくのとうに愛し合っているわよ」
「そうなのか?」

本当に知らなかったの?とは目を丸くし俺にその黒真珠の瞳で覗き込む。は大好きなお姉さんにはべったりで、自分の好きな者には贔屓する奴だ。反対に俺やレギュラスのことは虫のように嫌っていて、純血を崇める母さんの言いなりだ。とても、レギュラスを愛しているようには俺には見えない。

「ねぇそんなことどうでもいいのよ。あの子がレギュラスを愛そうが愛さまいが」
「それこそそんなことを聞いたらが泣くぞ」
「だってあの子がレギュラスといずれ結婚するのはどうだって変わらないでしょう、私と違って」
「お前こそ、いずれ」

言葉を塞がれた。その先は言わないで、とは唇をゆっくり離すと妖艶に笑みを浮かべた。完全に体重を俺に預けきっているは白魚のようなその手を、俺の胸に這わせる。目を伏せもう片方の手で髪をかきあげる仕草は、まさに時の流れを止めてしまった。

「手始めに、とりあえず家を出ましょうよ」

そう言いは俺の唇を再び奪うと俺はの小さな頭を支えるよう腕を回した。そうだ。が俺を愛そうが愛さまいがいずれ、は俺と結婚する。親に取り決められた結婚などバカバカしい。しかし俺はそういう対象でを愛してしまったわけで、結局俺はとどう転んだって結婚するだろう。全てをめちゃくちゃにしてやりたいけれど、それだけは家に従うことになるんだろうな。けれどそんな俺の長年の執念を俺の脳内から吹き飛ばしてしまうの唇には、毒林檎が含まれていたのかもしれない。